インドモディ政権の思い切った政策
インドのモディ政権が、矢継ぎ早に驚くべき経済政策を打ち出しています。11月8日火曜日、インド政府は突然500と1000ルピーの高額紙幣を、その日の夜12時をもって「廃貨」すると発表しました。
これはインド市中の全キャッシュの86%に当たります。12月30日までの間に合計4500ルピーまでは500と1000ルピー札を交換できるということですが、4500ルピーというと日本円にすると7200円程度の話です。現金で大金をタンス預金していた人々にとっては、寝耳に水、大変なことです。
寝ている間に5000円札と10000円札がもはや無効になって使えないということを想像してみてください。よくこれで暴動が起きないのか不思議です。もちろん、4500ルピー以外が全て無価値になってしまうのかというとさすがにそうではなく、キャッシュを銀行に預け入れれば、その分は引き出せるというもののようです。
この政策の目的は、税金の申告を逃れていて隠されていた資金を表に出させるのが狙いです。銀行に預けないと無価値になる、といっても犯罪で得たアングラな資金は表に出すわけには行かない。犯罪でなければ銀行に預けることもできるが、税務当局に捕捉され、税金を払っていなければ税金を払うことになる。これは政府的には素晴らしい政策だと言えます。モディ政権は犯罪で得たいわゆる「Black Money」を撲滅しようとしているのです。
政府にとってはこの上ない政策であっても人々にとってこれはまさに驚愕動転の出来事だと言えます。見方によってはまさに徳政令のようなものです。インドの人々が何よりもゴールドを買う理由がまさにここに端的に示された事例と言っても良いでしょう。ルピーを持っていても、信用できない、いつ無価値になるか分からない、そういった不安が証明されたことになります。
この発表があって、インドでは人々がゴールドに殺到、とりあえず現金をゴールドに換えるという動きに出て、一時販売業者は高額紙幣での販売に大きなプレミアムを乗せるなどの現象が見られたようです。そして、ゴールド業者はゴールドの輸入の注文を急激に増やしました。
インドは中国に次いで世界で2番目のゴールドの買い手です。約1000トンにもなる年間輸入量のうち、約3分の1一のゴールドがBlack Money-税務当局によって把握されていない個人が秘匿するマネーによって買われていると推測され、どんな正式な報告にも上がって来ないものだとされています。モディ政権の狙いはまさにこの資金を日の目にさらすことなのです。
モディ政権はこのようなショック療法をやめるつもりはまったくないようです。おかげで市中では現金が不足、そして、インドの人々は政府が次にどのような政策を打ってくるのか疑心暗鬼に陥っています。
ゴールド業者の間では、政府は来年初めから3月までゴールドの輸入自体を禁止するという噂まで流れています。そのため業者の中にはそれに備えてゴールド輸入を急ぐ向きも出てきています。
政府のゴールドに対する政策決定に関わっているある重要人物は、輸入制限に関する公式話し合いは何も無く、この噂は「非公式な」筋から出たものだとしています。インドの国内市場では、宝飾業者は現金と引き換えに50%ものプレミアムでゴールドを販売しているところもありますが、この「現金クランチ」はゴールド需要の3分の2を占める地方の買いにも大きく悪い影響を与えています。
しかし、ムンバイやニューデリーといった都会では、今回廃貨された高額紙幣を使ってゴールドを買いたい投資家が数多く見られ、やはり高額紙幣でのゴールドの売買(もはや法律違反ですが)ではだいたい公定価格の50%以上もの高い価格で売られています。
もしモディ政権が本当にゴールド輸入を禁止するとすれば、それはBlack Moneyのマネーロンダリングの温床になっているからであり、またゴールド輸入がインドの経常収支の大きな赤字要因になっているからでもあります。
ここ数年間、モディ政権は関税の引き上げや、80:20ルールといったいろいろな政策でゴールドの輸入を制限してきました。今噂されているゴールドの輸入禁止もありえない話ではありません。むしろ、大いにありえる話と思ったほうがいいでしょう。
しかし、問題は、仮に正式な輸入を禁止したとしても、それは密輸を促進しさらなるBlack Moneyを生み出す温床になってしまうだけになるということです。Black Moneyと戦うモディ政権ですが、その前途はまだまだ険しそうです。そして、その政策はゴールドのマーケットにも大きな影響を与える可能性があるだけに、これからインドで何が起こるか、注目していきたいと思います。