ゴールドコラム & 特集

ゴールド保有量を増やすロシア中銀

「加速するロシアのゴールド買い」

ロシア中銀がそのゴールドの保有量を急速に増やしています。特に2014年からの彼らの買いのペースは世界の中央銀行の中でも飛びぬけた存在になっています。


ロシア中銀のゴールド保有量:過去10年 mil toz、1mil onz=約31トン


今年10月には40.4トン(1.3mil onz)を購入しました。これは9月の16.5トンの2.5倍もの量であり、一ヶ月当たりの購入量としては過去最高記録となりました。これでロシア中央銀行は21ヶ月連続でゴールド購入量世界一の中央銀行となっています。そして、その保有量は1542.7トンとなり、外貨準備におけるゴールドの割合は16.5%になっています(ちなみに昨年同期は1370.6トンであり、外貨準備におけるゴールドの割合は13.6%でした)。


このロシア中銀のゴールド買いは驚きではありません。昨年2015年6月ロシア中銀の頭取はロシアのゴールド準備を$500billion (5000億ドル)まで、今後3年から5年の間に増やすとと明言しています。


「ロシアがゴールド買いを加速させた背景」


ロシア中銀は、2012~13年にはまさに5000億ドルのレベルでのゴールドを保有していました。しかし、それから重要な出来事が二つありました。一つは原油価格の動きです。2013年の高値である110ドルから、現在は45ドルに下落しています。そして、もう一つは2014年3月のクリミア侵攻の後の国際社会からの経済制裁です。

ロシア経済はその後きりもみ急降下状態にあります。2011年のロシアのGDPは4.2%でした。2012年はそれが3.5%に下落、2013年は1.29%、2014年は0.7%となり、2015年はマイナス3.7%となりました。2009年のリーマンショックによる米国経済の急落があった時のマイナス7.8%よりはましですが、ロシア経済がいまだに米国とその同盟国に頼っていることがよく表れており、一方でロシア政府の「復活力」も表しています。

原油価格の低迷と時を同じくした経済制裁はロシア経済を崩壊させてもおかしくないはずでしたが、そうはなりませんでした。確かにロシア経済は不況にありますが、西側の経済制裁は、ロシアと中国の結びつきをより親密なものとし、両国とも国際準備通貨である「米ドル」から距離を置くようになりました。そして、そうする最高の手段は、世界中どこでも簡単に取引ができるハードアセットを使うことでした。

「ゴールドがルーブルの信用力に」

そして、そのハードアセットはずばりゴールドでした。ロシア中銀はその資産の多様化、ルーブルへの信用付与、そしてロシア経済の他国への依存度を減少し、外国からの圧力、特に米国の経済危機や制裁などに対する抵抗力として、ゴールドを買い増しているのです。

2014年初頭からロシア中銀はゴールドの保有量を50%以上増やしました。そして、同時期に米国債の保有量を50%減らしているのです。

ルーブルは米ドルと同じく、表面上はただの法定通貨であり、政府の信用だけでその価値が保たれているものであり、他の何物にもその価値が保障されているものではありません。しかし、彼らのゴールド保有は明らかにルーブルの価値の下支えになっています。

「ゴールドの強材料」

今回のゴールドの下落時にゴールドを買っているのは、ロシアだけではありません。彼らはゴールド投資は保守的に行うと言っていますが、事実として中央銀行はいまだゴールドの最大の買い手です。

人類史上生産されたゴールドの約20%を中央銀行や政府といった公的機関が所有します。最大の所有者は米国で8134トンです。ドイツはやや離れるものの3378トンの所有とされています。

中央銀行は2010年から再びゴールドの買い手となっていますが、これはリーマンショックによる世界経済危機の影響からです。この年から2014年の間に中央銀行のゴールド買いは2%以下から14%まで急拡大しました。その意味ではまさにその資産の多様化を図っているのはロシアだけではないのです。

そして2014年以降の中央銀行のゴールド買いはそれに拍車をかけるものでした。中央銀行の2014年の購入量は584トンとなり、過去50年間の最大量となりました。そして、2015年はそれをも上回る588トンとなり、今年2016年もまたそういう年になりそうです。

FRBはおそらく12月に利上げをするでしょうが、米国の実質金利はマイナスのままでしょう。世界中でのマイナス金利は、世界経済がうまくは行っていないことを示します。現在の世界を見る限り、マイナス金利が経済をかさ上げしているところはどこもありません。トランプ政権になり、アメリカの経済浮揚がうまく行かなければ、FRBとしても再び名目金利をも下げる圧力がかかってくるでしょう。問題はそうしても経済は好転してこなかったということです。

ロシアをはじめとして多くの国々(新興国がメイン)は2010年以来、ゴールドが上がっても下がってもゴールドを買っています。最近のゴールドの下落は彼らにとってはゴールドを買うのに良い状況だと言えるでしょう。特にドルが一人勝ちして上昇している今こそ、ドル資産売り、ゴールド買いの絶好のチャンスと言えます。新興国通貨が強烈に売られている今こそ、彼らがゴールドを買っている意味が出ていると言えます。今後も中央銀行のゴールド買いは続くものと思われます。特にロシアと中国は確実に増やしていくでしょう。


岡藤商事株式会社

プロフィール

池水 雄一

Yuichi Ikemizu

スタンダードバンク東京支店長

1990年クレディ・スイス銀行、1992年三井物産貴金属リーダー、2009年より世界一の金取引量を誇るスタンダードバンクの東京支店長に就任し、現在に至る。一貫して貴金属ディーリングに従事し、世界の貴金属ディーラーでBruce(池水氏のディーラー名)を知らない人はいないと言われている。著書に「THE GOLD ゴールドのすべて」など。

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