ゴールドコラム & 特集

ゴールド鉱山会社の埋蔵量不足

今年最後はゴールド鉱山会社の生産に関する面白い記事がBloombergに出ていたので、それを紹介します。

2016年前半、ゴールドは30%以上の急騰を見せましたが、後半はその大部分を下げてしまうというジェットコースターな一年でした。しかし、一つだけそのトレンドがはっきりしているのは、鉱山会社にとって貴金属を掘り出すのはどんどん困難になっているということです。

「鉱脈発見の減少」

2012年の10年の間にゴールド鉱山会社の鉱脈探索の予算は10倍以上に膨らんで一年60億ドルと急増しているにもかかわらず、新たな鉱脈の発見は減少しています。2015年に発見された金鉱脈は、2006年に比べると85%も少なくなっています。


(表:発見されたゴールド鉱脈-単位 million ounces)


「投資の削減」

2011年の歴史的高値からの41%もの価値の下落に、鉱山会社も投資を削減しています。それにより、より多くの鉱脈を探るためのインフラを構築できず、多くの鉱山の寿命が短くなっています。


(表:大手ゴールド鉱山会社の投資額の推移)


「減少する埋蔵量」

鉱脈発見数の減少、鉱山寿命の短命化、そしてより安くなったゴールド価格のため、現在までに発見されている経済的に採掘可能なゴールドの地中量(つまり埋蔵量)は減少しつつあります。大手生産者の埋蔵量は2011年から40%も減少しています。


(表:埋蔵量の変化)


「供給不足が迫りつつある」

年間のゴールド生産量はほぼ記録に近い量ですが、これはあまり長く続くとは思えません。いわゆる「ピークゴールド」論によれば、鉱山生産量は2019年にはピークを迎え、少なくとも2025年までは減少が続くことが、ほぼ確定しています。


(表:ピークゴールド。世界のゴールド鉱山の生産は2019年にその頂点を迎える)


しかし、ここで注意が必要なのは、毎年生産されるゴールドの量は、これまで生産されたゴールドのわずか2%に過ぎない量であり、銅や原油と違い、ほとんどのゴールドは倉庫の中で眠っているか、宝飾品の形で保存されているということです。そのため、もしゴールドの供給が少なくなれば、古いメタルがマーケットへ戻ってきやすいのです。

「埋蔵量を巡っての競争」

将来の生産に対する厳しい予測から、ゴールド鉱山会社の経営陣は、ライバル鉱山会社を買収することで、減りつつある埋蔵量を増やそうとしています。今年のゴールド鉱山の買収案件金額は、ここまで他のメタルを大きく上回っています。


(表:埋蔵量を買う)


「Bruceの一言」

20年前に発見され採掘が開始されたゴールド鉱山はその本格的な生産まで約20年かかると言われており、理論的には今出てきているゴールドは今から20年前に発見された鉱脈から出てきたものであるということになります。確かに鉱山生産量は、20年前に発見された鉱脈の量がそのまま反映されているはずなので、この先それが減少していくのはもはや「分かっていること」なのです(20年前から鉱脈の発見量は減少しているから)。とすると、これからどんどんゴールドの供給量は減少して、供給不足からゴールドが高騰して行くのでは、と考えたいところですが、上の記事でも触れられているように、ゴールドは原油や銅とは違って、これまで生産されたゴールドの大部分が、そのままの形で地上に存在しており(17万5000トンと言われています)、地上のゴールドは増えることはあっても減ることはありません。そう考えると少なくともゴールドが本当に無くなって価値が上がると考えるのには無理がありますね。

「年末のご挨拶」

読んでくださっている皆様、今年もありがとうございました。これが今年最後になります。また来年もつらつらと貴金属関係の話を書いていくことになると思いますが、よろしくお願いします。

皆様にとって良い年末・年始になりますように!

Bruce Ikemizu


岡藤商事株式会社

プロフィール

池水 雄一

Yuichi Ikemizu

スタンダードバンク東京支店長

1990年クレディ・スイス銀行、1992年三井物産貴金属リーダー、2009年より世界一の金取引量を誇るスタンダードバンクの東京支店長に就任し、現在に至る。一貫して貴金属ディーリングに従事し、世界の貴金属ディーラーでBruce(池水氏のディーラー名)を知らない人はいないと言われている。著書に「THE GOLD ゴールドのすべて」など。

最新コラム

新着ゴールドグッズ

一覧を見る