南アのゴールド:流れを変えるか?裁判所の判決
南アフリカのゴールドの生産量は、GFMSのゴールドサーベイによれば、2015年は世界7位の150.7トンでした。南アと言えば1960~70年代は一年に1000トン以上ものゴールドを生産する年もあったまさにゴールドの生産国の中ではガリバー的な存在でした。しかし、その生産量は毎年減り続け、今では150トンと最早まるで目立たない存在になってしまいました。以前は南アで何かあるとゴールドが大きく反応をしましたが、現在では南アで何かあってもゴールドはほとんど反応しないくらいにマイナーな生産国となってしまいました。
南アのゴールド生産がこれほどまでに減少してきた大きな原因は、まず労使対立の問題があげられます。鉱山会社と鉱山労働者組合との深刻な対立関係が、生産コストを引き上げ、生産の遅れや完全な停止を招いています。この労働争議による完全な停止が先週裁判所により法律違反ということになりました。南ア憲法裁判所は先週、2014年に労働裁判所が団体一括交渉の結果を認めるのを強制することを不服として鉱山労組AMCU(Associated Mineworkers and Construction Union)が提訴していた問題で、AMCU側の言い分を退けたということです。これはそもそも2013年の賃金交渉時に他の全ての労働組合が賃金交渉を妥結した際、AMCUだけがそれに反対、NUMをはじめとする他の労組がAMCUも「団体一括交渉」の結果としてそれを受け入れるように裁判所に訴えたことが事の発端でした。今回の判決により、今後AMCUもまた他の労働組合も、これまでのように「合法な」(ストライキの間は労働者は解雇されないといった)ストライキを打つことはできなくなります。このような「活動家先導型」のストライキは労働者たちが解雇される危険を伴うことになるからです。これは南アのゴールド(およびプラチナ)鉱山会社にとっては朗報であり、ストライキの数は大幅に減少することが期待されます。もちろんまだ完全にこのケースは終わったわけではなく、AMCUは上訴を検討中ということですが。
「南アの可能性」
米国地質調査所(US Geological Survey:USGS)によれば、南アはそのゴールドの埋蔵量がまだ6000トン近くあり、中国とロシアに次いで第三位で、中国とロシアの埋蔵量とそれほど変わらないレベルです。
下のチャートは2001年から2016年までの南アの鉱物生産の量の変化です。注目して欲しいのは紫のラインで、これもまた南アの主要な鉱山生産品でクロム鉄鉱です。このチャートでよく分かるようにクロム鉱の生産は同じ10年でも全く減少することなくかえって増え続けています。南アはクロム鉄鉱の圧倒的な世界一の生産国であり年間1400万トンを生産しており、世界の供給の46%を占めています。ゴールドの生産量が2001年から65%減少しているのにクロム鉄鉱は逆に155%も増加しています。いまだゴールドの世界最大級の埋蔵量と、このクロム鉄鉱の生産量の増加の動きを考えると、ゴールド鉱山会社の抱える問題は、南アの問題というよりはゴールド産業独自の問題と言えそうです。やはり、ゴールド鉱山労働組合が「好戦的」であることが大きいのでしょう。だとすれば今回の裁判所の判決は、過去長い間落ち込んでいた南アのゴールド生産が復活するきっかけになるかもしれません。