ゴールドコラム & 特集

回復するインドのゴールド需要

インドによるゴールドの需要が回復基調にあるようです。2月の輸入量は、前年同期比にして、3倍となっています。来月から始まる祭礼と結婚のシーズンを前にして宝飾業者が在庫積み増しの動きに出ています。Bloombergの記事によると、インドの財務省の非公開の情報によれば、2月のゴールド輸入量は96.4トンであり、これは前年の2月に比べて175%の増加ということ。8月のモディ政権による突然の高額紙幣の廃止により、ゴールドの需要も滞りましたが、宝飾業者は在庫を積み増し、今年は4月末に当たるヒンズー教のAkshaya Tritiya (ゴールドを買うと縁起の良い祭日)には、結婚シーズン(4月から7月)へのゴールド需要の盛り上がりを期待しています。

2017年の年間輸入量は回復するとみられていますが、歴史的なインドの輸入量と比較すると控えめな数字が予想されています。Citigroupの最新のレポートによると2017年のゴールド輸入量予想は725トン。


(輸入量の回復)


ちょうどWorld Gold Council(WGC)から「インドのゴールド需要の復活」というレポートも入ってきました。以下要約です。WGCはインドのゴールド需要は2016年が底であり、今後は伸びていくと見ているようです。やはり何よりもインドの文化にゴールドはもはや欠くことのできないものとなっており、それが最も大切な要素のように思えます。どんなに政策でそこをコントロールしようとしてもできるものではありません。

「2016年のインドゴールド需要は減少」

インドのゴールド産業にとって2016年は厳しい年でした。年前半には1%の宝飾品に対する消費税に反対して宝飾業者が42日間ストライキを敢行。また、政府の闇経済撲滅政策の一環としての所得公開スキームを始めたことも消費者をゴールドの購入から遠ざけました。そして、第4四半期には、突然の高額紙幣廃止が経済全体での流動性不足を招きました。これらの政策や、農村の不調、そして上昇するゴールド価格により、インドのゴールド需要は2009年以来の低い水準となりました。



このインド政府の一連の政策のキーワードは「透明性」。政府は官僚主義を正し、税金逃れを追及し、インドの現金ベースの経済をデジタル時代へと大きく移行させる心積もりなのです。この政策は多くの利益を運んできますが、短期的には間違いなく多くの問題を引き起こすでしょう。



「ゴールド需要の見通し」

厳しい2016年に続き、インドのゴールドマーケットは逆風にさらされています。30万ルピーを超える現金取引の禁止は、地方・農村でのゴールド需要にとって深刻な影響を与え、そして計画されているGST(消費税)も短期的にはゴールド産業にとってはマイナスの要因となるでしょう。

しかし、昨年の落ち込みがあまりに大きかっただけに、今年はそれ以上の落ち込みはないと予想されます。銀行は新たな流動性が増加し、モンスーンの豊作、中央政府職員と年金生活者のインフレを上回る賃金(年金)上げが、経済の成長の機動力になるでしょう。インド政府が7月1日を導入目標としているGST(Goods and Services Tax:日本での消費税に当たる)はインドの複雑怪奇な税金構造を一本化し、経済成長を助けるのみならず、ゴールドの価格構造をより透明性の高いものにするでしょう。また、インド経済はこれから労働力となる若い世代からその活力を得ることになるでしょう。ちょうど80年代90年代のアジアの虎(シンガポール、台湾、香港、韓国などの当時の新興勢力)がそうであったように。こういった全ての要因がインドの経済成長を後押しし、ゴールドの需要を支えることになるでしょう。

脱現金化は人々の行動パターンをも変える可能性があります。今回の廃貨は、通貨に対する人々の信頼を大きく揺るがせ、ゴールドへの信頼をより強固にしました。WGCの行った大規模な調査によれば、2016年の第1四半期には、「私は国家の通貨よりもゴールドを信頼している」という問いに対するインド国民のイエスの答えは63%でした。そして、73%もの人々が「ゴールドを持っていると長期的に安心できる」という問いにイエスとしています。脱現金化の動きはこのようなインドの人々の心理をより強くさせるでしょう。

脱現金化はまた、大手宝飾小売業者にとっては追い風です。彼らのシェアは増大することが予想されます。消費者はゆくゆくは現金から離れ、デジタルな決済へと移行するでしょう。これにより、市場の透明度が増し、消費者にとっては品位詐欺のような悪しき商売から守られることになります。

インドのゴールド需要は過去も大きく減っては、必ず回復しました。政府によるゴールドに対する締め付けも失敗しました。ゴールドはインド社会にもはやとても深く織り込まれおり、それを変えることはできないのです。

2017年の需要は回復する可能性が高いですが、それでもインドの買いは650トンから750トンの間と控えめな数字を予想しています。中長期的には経済成長とより進んだ透明化がゴールドの需要を押し上げると考えます。2020年にはインドは850トンから950トンのゴールドを買うと予想します。


岡藤商事株式会社

プロフィール

池水 雄一

Yuichi Ikemizu

スタンダードバンク東京支店長

1990年クレディ・スイス銀行、1992年三井物産貴金属リーダー、2009年より世界一の金取引量を誇るスタンダードバンクの東京支店長に就任し、現在に至る。一貫して貴金属ディーリングに従事し、世界の貴金属ディーラーでBruce(池水氏のディーラー名)を知らない人はいないと言われている。著書に「THE GOLD ゴールドのすべて」など。

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