GFMS Gold Survey 2017
毎年お約束の「GFMS Gold Survey」 2017年版が発表されました。今年は何とこのGold Surveyの50周年に当たるとのことです。この50年を飾るSurveyの冒頭は、ロンドンのゴールド市場の生き字引とも言えるゴールドに関する著名なライターであるTimothy Greenが、過去の歴史を振り返り寄稿しています。 是非その原文を皆さんに読んで欲しいのですが、まずその冒頭の一部、どのようにしてこのSurveyが生まれたかを抜粋してここに訳しておきましょう。当時(1967年)はまだゴールドは1オンス35ドルの固定相場が生きていた時代です。この固定相場がまさに終わりを迎えようとする激動の時代にこのSurveyは生まれたのでした。当時の時代背景を知るだけでも、これは読む価値があります。
「このGold Surveyの始まりは1967年の荒れたマーケットの時でした。中央銀行は、増えつつあった民間の買いに対して、ゴールド価格を35ドルで固定化しようと努力していました。これは1934年にルーズベルト大統領が決めた価格です。民間の買いの背景は、より豊かになってきた世界がゴールドを使った宝飾品を求めるようになったこと、それと同時に弱いドルに対しての投機と、そして、あまりにも長い間人工的に抑えられてきた価格は必ず上がるはずだという期待がありました。 しかし、この頃は主な先進国の政府の「公的な」統計しか発表されておらず、「公的ではない」ゴールドの拡散は全く無視されていました。当時はまだ政府のゴールドへの規制が強く、私的な輸入は制限され、また課せられる税金もとても高率なものだったのです。 しかし、そんな中Samuel Montagu社はマーケットの中におり、彼らの「Annual Bullion Review」で、ほとんどのゴールドは中央銀行ではなく、民間の方に流れていると指摘しました。このギャップを埋めるために、Consolidated Gold Fields(CGF)のDavid Lloyd-Jacobは(CGFは当時に南アで二番目に大きなゴールド鉱山会社)、ゴールドの宝飾、産業用などの加工需要と保有を世界中で追いかけることによって、公的な統計の補充をしようとしたのです。鉱山会社にとっては、このような情報は将来の投資の判断をするのに極めて重要なものでした。」
「1967年の夏までには、彼はCGFの社内レポートをまとめ、それによると、その前の10年の間に、宝飾と産業用需要に回るゴールドは鉱山生産の25%から最低でも50%に大幅に増加したとされ、1973年、つまりその5年後には、この価格であれば、年間鉱山生産量を全てを民間の加工需要が飲み込んでしまうことを予想しています。これは、もはや金本位制ではなくなったけれども、それでもゴールドの保有が基礎と言ってもいい世界の金融システムに深刻な影響を与える予見であり、これまでゴールドの需要は通貨(第一次世界大戦まで)への加工か、中央銀行の準備のためであるという見方を180度回転させるものでした。当然、これを裏付ける確固とした数字をまとめるのが急務となりましたが、当時のCGFの取締役たちはこれを発表することに躊躇。 しかしLloyd-Jacobは彼の主な発見を雑誌「The Economist」に流し、1967年12月23日号で特集したのです。」
「この記事から3ヶ月以内に、投機的な35ドルでのドル売りゴールド買いはますます激しくなり、1968年3月のゴールド危機を迎えます。中央銀行は、1オンス=35米ドルの固定価格を維持することを諦め、変動相場制に任せることになったのです。そしてこのゴールドの全く新しい世界では、世界のゴールドの需要を理解することが必要不可欠になったのです。CGFではDavid Lloyd-Jacobに世界の民間のゴールド需要を分析する権限を与えました。最も重要な問題は「どれだけの量が、どんな形で、そしてどういう目的で買われているのか?もし保有が目的だとすれば、誰が、どこで、なぜ?ゴールドを保有目的で買う人たちの心理的モチベーションはなんなのか、そして彼らはこれからの未来にどのように行動するのか?」
「供給と需要」
2016年はちょうど2013年を鏡に映したような対照的な一年でした。2013年は、ゴールドが大きく売られ、Gold ETFからの大量の資金が流出、金融危機が終わりつつあるという認識でした。2016年は逆に地政学的な不安が続出、投資資金がゴールドに戻ってきた一年になりました。Gold ETFは574トンも増加、これは2009年以来の数字です。一方2013年は巨大なゴールドの買い手であった中国は2016年はその経済の減速から見る影もない状態でした。インドは政府からの規制のために、これもまたゴールド需要は全く良くない状況でした。このゴールド界の両巨頭は今年は少し明るい状態です。それでもインドは消費税課税の影響がどのようなものなのか、そして中国は経済の減速がまだ続いており視界不良であることは確かです。
今年の鉱山生産は減少することを予想。世界の需要はゆっくりと回復し、その結果2016年よりも小さな供給過剰となるであろうと思われます(それでも絶対量はまだまだ大きいといえますが)。ゴールドの価格の動きは投資家心理の影響が大きいものとなるでしょう。短期であるにしても後退がありえるかもしれません。西洋の投資需要は最近はとても流動的で、それにより2017年の初頭のゴールド価格の動きがずいぶんと影響され、2016年の下げをある程度回復するに至りました。しかしながら米ドルは将来のゴールドの価格の上げに対する障害物ととなるでしょう。実際3月には米景気の回復とともに、さらなる金利引き上げを期待した向きのゴールド売りでゴールドは下げました。
しかし、2017年が進めば、より多くの「資金の逃避買いsafe haven demand」が増えていくものと思えます。米国そして欧州の政治状況、特に一国でも欧州で反EU候補が勝利すれば、ユーロの今後に対する不安は増大、そしてトランプ大統領の「非伝統的」なアプローチも手伝って、よりゴールドに対する投資は増えるものと予想します。また、マーケットは上がり過ぎたかもしれない株式市場に不安を持ち、逆にそれがゴールドにとってはプラスになることでしょう。ゴールドの年間平均価格予想は1259ドル。このレベルが来年以降の上昇に対する基礎になると考えます。