明暗を分けるパラジウムとプラチナ
パラジウムとプラチナの明暗がきれいに分かれています。プラチナとパラジウムの比価は一時1:1.18まで縮小し、その後は少し戻していますが、未だに1.20近辺でここ何年もの間の最も縮小した状態になっています。
過去数ヶ月、世界の地政学的緊張によるゴールド上昇の恩恵を最も受けていないのがプラチナであるのに対して、パラジウムは2017年前半の上昇の勢いをそのまま維持している対照的なマーケットになっています。パラジウムが堅調なのは、その需給バランスが他の貴金属よりも引き締まっていることが反映されています。今年はここまで中国や米国といった主要自動車市場での成長がスローダウンしているとはいえ、需要全体としてはしっかりしています。特に中国の成長のスピードが減速したと言っても、2017年年初の小型車への減税措置に継続(2016年に比べてその幅は縮小されましたが。)が決定されて、政府が自動車業界をサポートする形がはっきりとしました。そしてそれも受けてか、中国のパラジウム需要は非常に強いようです。中国の業界事情に詳しい筋によると、中国国内で、パラジウムのインゴットをスポンジに加工する精錬所が多く出来ているようです。自動車の触媒には基本的にはスポンジ(粉)形態のものが使われますが、スポンジは常に不足している状態にあるので、こういった工場も設立しインゴットでも使えるようにしているようで、中国へのパラジウムの最大のエントリーポイントである香港へのパラジウム輸出の量が急激に増加しています。
2016年の香港のパラジウム輸入量は前年比31%の増加で、特に第4四半期の急増に引っ張られて、史上最高の数字となりました。この流れは今年も続いており、1~2月の数字は前年比で17%の増加を記録しています。
今年もパラジウムの自動車触媒需要は史上最高を記録することが予想され、現物の供給は相当の不足になる予想がされています。Metals Focusによると、これにより2017年年末には地上在庫が10.5mil onz(約326トン)まで減少するとしており、この量は16ヶ月分の需要に当たるということです。
パラジウムが現物不足になっていることはそのリースレート(メタルの金利のことです。)にも反映されています。現在、ゴールドの一年のリースレートは0.45%、シルバーは0.04%、プラチナは0.53%といずれも超低金利状態ですが、パラジウムだけは2.73%と群を抜いて金利が高い状態にあります。つまりそれだけ現物が少なく、借りたい人が多いということを意味しています。
フランスの大統領選挙の第一回投票が終わり、リスクオン相場が戻ってきて株式市場、ドルともに大きく上昇しており、それに対して貴金属が総じて売られている状況において、パラジウムだけが、逆に再び800ドルから大きく下がらず上昇の気配を見せているというのがその端的な表れだと考えてもおかしくないでしょう。
プラチナの需要も、欧州における反ディーゼルの動きが徐々に広がっており、欧州の第1四半期の小型乗用車の快調な売り上げもその成長の大部分がガソリン車であり、また世界各地でのディーゼルからガソリンへの動きもあいまって、2017年のプラチナ触媒需要は過去4年で初めて減少する見通しです。そのため、プラチナの需給は若干の供給過多の見通しで、Metals Focusによると地上在庫は8.3mil toz(258トン)となり13ヶ月分の需要をカバー出来るとのこと。
この対照的なファンダメンタルズ(需給構造)があるために、現在のパラジウムとプラチナの動きがあるといえます。そして今後もこの流れは続いていきそうです。ただし、Nymexでの投資家のパラジウムロングポジションが膨らんでいること、そしてパラジウムの地上在庫はまだ十分に存在していることから、このまま一足飛びに大きく上昇してプラチナと逆転ということにはならないと思われます。