ゴールドコラム & 特集

パラジウム

今週はICBC Standard Bank のアナリストがパラジウムに関して書いたものを抜粋して紹介します。

「パラジウムはバブルの可能性があるが、減少傾向にある自動車売上にもかかわらず、また上昇する可能性も否定できない。」



◎テクニカル的にはパラジウムは買われ過ぎに見える。900ドルを超えた場面では、売り手が圧倒的であり、ここからの上昇を続けるには907.75ドル以上での引けが必要。

◎Nymexのファンドのロングポジションは既に非常に高いレベルにあり、最近はアジアからヨーロッパへ現物が送り返されているようである。

◎これらの動きから、おそらくパラジウムの現物のタイト感は緩んでくると思われる。そうなればある程度の規模のスポット価格の修正に繋がろう。現物が出てくる最大の可能性のあるマーケットはETF。過去18ヶ月の間にパラジウムETFからのインゴットの流出は約47トン(ただしほとんど2015年と2016年)。ここから出てきたインゴットが全てマーケットに出てきたわけではなく、おそらく900ドルを超えると、そういったインゴットが市場に出てくると思われる。
しかしながらパラジウムのマーケットは小さく、もしレバレッジをかけることができる、一人か複数の投資家が価格を引き上げたければ、おそらくそれは可能だろう。買い手に対して売り向かうのは、1~3ヶ月のリースレートが15~20%もする状況では、コストがかかり過ぎて、売り手が非常に不利である。

◎現状のメタル不足のテクニカルな部分はさておき、需給というファンダメンタルズは、パラジウムのさらなる上昇を呼び、プラチナに対するディスカウントをさらに狭く、そして最終的にはパラジウムとプラチナの逆転劇を可能にするかもしれない。

◎もし、プラチナとパラジウムの比価を取り引きしたいと思うのなら、まず世界の二大ガソリン車市場である、中国と米国からの気になるシグナルに気付くべきである。この両国で自動車販売のペースが今年は大きくスローダウンしている。理由はいくつかある。「クレジット(顧客に対するオートローン)」「成熟期を迎えたビジネスサイクル」、そして自動車会社からの販売促進費の減少である。中国・米国ともに消費者クレジットを厳しくしており、その上に金利が上昇してきており、それが自動車販売に影響を与えてきている。米国では2010年から自動車ローンの残高は伸び続けてきたが、ここに来てその伸びが止まっている。その理由の一つは貸し手が自動車ローンの規準をより厳しいものにしているということだ。そしてその一方、現存の自動車ローンの不良債権化がじわじわと進んでおり、中古車価格は2009年以来の最も速いペースで下がりつつある。


(米国の自動車ローン貸し手はその規準を厳格化しつつある)


(米国自動車ローンの不良債権化がじわじわ進みつつある。)


(中古車価格は下落中)


◎中国では企業や不動産、そして個人に対するクレジットの厳格化が、自動車ローンにも影響を与えている。ただし、米国に比べるとローンで自動車を買う人は圧倒的に少ない。

◎米国では6年間にわたる自動車販売の非常に強い回復を経て、その販売台数は年間1800万台まで上昇した。しかし、そろそろピークアウトを迎えており、その在庫レベルはまだ行き過ぎとまでは言えないものの、過去からのレベルの天井付近にある。

◎中国では2015年Q4から始まった小型車購入の取得税の10%から5%へのカットの悪影響が出てきている。今年年初に5%から7.5%へとレートを上げ、この税率上げが少なくとも現在小型車の売上を減らすことに繋がっている。この影響は自動車の製造数と売上(登録数)の違いに如実に現れている。消費者は昨年末、税金が上がるまに駆け込みで買い、ディーラー在庫が大きく減少。しかし、その逆の動きが年初1月から始まっている。


(米国と中国の自動車販売台数)


(2017年1月に中国の在庫急増)


◎このため、パラジウムの動きに対して我々は警戒の黄信号を灯したい。プラチナとの関係という点からも、ディーゼル自動車の最大の市場である欧州からの情報は複雑である。プラチナの支持者は、ディーゼル自動車に対するネガティブな意見は少し行き過ぎだという見方であり、メディア、アナリスト、パラジウム強気派、ロシアは、ディーゼル自動車のマーケットシェアに対して、悲観的過ぎる見方をしているということだ。しかし、残念ながら直近の統計を見る限り、その数字はプラチナ派にとって芳しいものではないというのが実情だ。

◎欧州の自動車市場の統計数字によれば、今年の5月まではディーゼル車はそのシェアを減少しつつあり、昨年は西ヨーロッパ全体で49.5%のシェアであったものが、今年の最初の五ヶ月で47%まで下落。ドイツのミュンヘンでは、Euro 6という新たな排ガス規制に適合しない自動車は、最低でも部分的に走行を禁止することを検討中という話が出ている。また、米国ではウェストバージニア大学での専門研究機関によると、Fiat Chryslerのあるディーゼルエンジンは、排出する二酸化窒素の量が、アメリカの規制で許された量の3倍から20倍も検出されたということ。

◎欧州では2021年までに95g/kmという二酸化炭素排出量を達成しなければならない。実はディーゼル自動車はガソリン自動車に比べて二酸化炭素の排出量に関しては20~25%も少ない。そのため自動車メーカー各社は彼らのラインナップにディーゼル自動車を大きな割合で並べたいというのが本音である。しかし一方、二酸化窒素はディーゼルエンジンの方がガソリンエンジンよりも多いので、こちらは別の方面からの環境圧力が存在する。

◎自動車会社はおそらくより環境に優しいクリーンディーゼルの開発(実際の道路の走行テストに合格するくらいの)に加えて、ハイブリッド車と電気自動車の生産も進めるという二重の道を行くということになる。プラチナにとっての心配は、電気自動車化への動きが、消費者側から(性能、環境、税金・コストという面から)進むとディーゼル車のシェアのがさらに下がる可能性が否定できないことである。

◎プラチナとパラジウムの値差はもはや50ドルにまで縮小している。そのため、パリティももはや時間の問題に思える。ただし、現在のマーケットのポジション(積み上がったパラジウムのロング)を考えると、まだスプレッドをゲットインしていない投資家には、パラジウムロング筋の利食い売りが出た時に、スプレッドをゲットインするためのより良い機会が今後ありえると考える。


岡藤商事株式会社

プロフィール

池水 雄一

Yuichi Ikemizu

スタンダードバンク東京支店長

1990年クレディ・スイス銀行、1992年三井物産貴金属リーダー、2009年より世界一の金取引量を誇るスタンダードバンクの東京支店長に就任し、現在に至る。一貫して貴金属ディーリングに従事し、世界の貴金属ディーラーでBruce(池水氏のディーラー名)を知らない人はいないと言われている。著書に「THE GOLD ゴールドのすべて」など。

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