ボラティリティはどこに?
今週の東京商品取引所の貴金属市場活性化委員会に出席しました。そのときに取引所側のレポートに現在のTocom gold(円建てのゴールド)のボラティリティ(市場変動率)が5%を切っており、これは過去14年間の最低レベルであるということが出ていました。そしてこのボラティリティと出来高が密接に関係しており、ボラティリティが下がれば下がるほど出来高が下がる、つまり相場が動かないと商いが薄くなるということです。
円建ての価格は、基本的にゴールドと為替(ドル円)の動きを打ち消しあって、ほぼ動かずということになりがちです。現在はドルとゴールドとの逆相関(0.41%)よりも、円とゴールドの相関(0.71%)のほうが遥かに高くなっており、より円建てのゴールドが動かない状況になっています。
それではドル建てのゴールドのボラティリティはどうなっているのでしょう。下のチャートはゴールドとシルバーの3ヶ月物のボラティリティです。現在、ゴールドの3ヶ月物ボラティリティは10.8%。一ヶ月物は10%を割り込んで9.45%です。これは過去12年間で最低のレベルです。
前回ボラティリティがこのレベルまで下がったのは2005年ですが、その時は直後にボラティリティが大きく上昇し、ゴールドが26年ぶりの高値をつけると同時に1年でおよそ3倍(30%超え)となりました。当時原油価格は80ドルまで上昇し商品市場全体が強気に盛り上がっていました。(いい思い出です!笑)
当時と同じレベルまで下落したボラティリティが、当時と同じように一年で吹き上がるというのは考えにくいと思いますが、このように地政学的環境が不確かで、株価がこんなに高騰していて強気派がこれだけロングしている状況において、ゴールド(そして為替や株も)のボラティリティがこんなに低位にあるのは本当に正しいのかという疑問が湧きます。
ゴールドオプションの需給を考えると、少なくとも短期のものは、非常に偏っています。今年年初から今までのコメックスのゴールドオプションの建玉平均を見ていると、コールオプションの建玉がプットオプションのほぼ2倍あります。毎日の取引量もコールオプションがプットオプションに平均1.4倍も取引されているのです。
この偏ったポジションの反対側にいるブローカー達は、ボラティリティの売り手となり買い手があまり存在しないマーケットでボラティリティが下がるという状況になっているのです。
Gold ETFではより偏った状況になっています。コールとプットの割合は3対1にまで広がっています。
この状況に何らかの変化はいつ来るのでしょうか?
ICBC Standard Bankのアナリストはこうまとめています。
「長い目でみれば、予想を超えた長期間になっている超低金利状態は資産配分を狂わせ、リスクの評価をも狂わせている。問題なのはその修正すべき時期が2007年にはまるで想像すら出来なかったくらいあまりにも長きにわたって前伸ばしされていることだ。賽は既に投げられているが、世界の中央銀行が供給している流動性の波に逆らって泳ぐということは、胃が水で一杯になるということである。(今はまだ苦しい)恐らく、ターニングポイントはFRBがバランスシートの縮小を具体的に開始し、ECBはすべての資産を買い尽くした時であろう。そしてそれは早ければ今年の年末にやってくる可能性がある。」
今年の後半から年末がこの異様に低いボラティリティが何らかの形で訂正される、すなわち相場が大きく動きだす可能性があると考えているということですね。