プラチナ、電気自動車と燃料電池
今週もまたプラチナ周りの話をしましょう。先週はWPICのレポートを紹介しました。内容的には電気自動車はプラチナの脅威にならず、というものでしたが、今週はその逆の見方の紹介です。これはICBC Standard BankのアナリストTom Kendallの見方をまとめたものです。WPICの予測とは全く逆、将来の電気自動車化は避けられないものという意見です。
先週フランスのユロ・エコロジー相が、2040年までに国内でのガソリン車とディーゼル車の販売を禁止する方針を発表しました。これは地球温暖化対策の「パリ協定」の目標達成に向けた二酸化炭素排出削減計画の柱の一つです。22年までに石炭火力発電所の停止、そして50年には国全体の二酸化炭素排出量を差し引きゼロにする「カーボンニュートラル」を目指すということです。このフランス政府の動きが象徴するように、このところ政府や自動車メーカーの自動車の「電気化」への投資が勢いを増してきています。
自動車メーカーボルボは、2019年以降の彼らの作る自動車全て、少なくとも部分的にでも「電気化」したものになると発表し、BMWは今年第1四半期の決算発表で、「我々のポートフォリオ(この場合同社の生産する自動車群)の「電気化」は最優先事項である」としています。自動車メーカーは、環境保護省庁や政治家からのはっきりとしたサインに反応しているといえます。そのいくつかは環境規制法律のためというよりも、向上心の発揚という印象の強いところもあります。例えばインドは国として2030年代前半には電気自動車の国にしたいというまさに大志を抱いており、今回のフランス政府の発表もそれと同じくらい野心的なものだと言えます。
中国ではその新エネルギー車政策とそれに対する補助は柔軟性を持ったものですが、現在の目標は2025年までに自動車売上の最低20%を新エネルギーのものにするというもので、中国政府はコストを下げるために業界の再編を強いています。2016年は50万台の電気自動車とハイブリッド車が中国で売られましたが、これは前年比50%増という数字です。
炭化水素生産会社もこの変化に気づき、その予想を上方修正しています。BPは2035年までに世界中で1億台の電気自動車(ハイブリッドを含む)が売れると予測。
先進国でも新興国でもマーケットの方向は明らかであり、プラチナ生産者にとっての問題は、この電気化される将来において、燃料電池車が重要な役割を果たすかどうかでしょう(燃料電池には触媒としてプラチナが必要とされる。)
少なくともこの後の10年の見込みは明るいとは言えません。時の流れは、明らかに電気自動車に来ており、電池の材料周辺では巨大な取引がなされているのが、その何よりの証明。
中国企業がチリのリチウム生産会社やコンゴのコバルト生産会社に出資しており、ロイターによれば、グレンコア社は中国最大の電池メーカーとコバルトの販売契約を締結し、2017年6月にはBASF社がニッケルやコバルトといった電池の材料の供給に関してロシアのノリリスク・ニッケル社とMoUを結んでいます。
これらの投資のリターンはもちろんまだ確定しないものですが、ひとつ明らかなのは、世界の巨大企業が将来の電池電気自動車が必要とする原材料を確保するために積極的に投資をしているということです。彼らはほぼ将来は電気自動車になると確信しているのでしょう。残念ながら、燃料電池には同じような状況は全くおこっていないのです。
日本の三大自動車メーカーのうちの二社は、公にはリチウムベースの電池技術よりも水素ベースの燃料電池技術にコミットしています。しかしそのどちらもプラチナの供給の確保をしようという動きはしていません。マーケットが受け入れる可能性があるとしても時期的にはまだまだ未来の話で、実際商売になるのかどうかも現在の時点でははっきりせず、技術の進歩によっては燃料電池でのプラチナ触媒の使用量が減る可能性もあり、現在におけるプラチナ供給の確保は大きな切迫したニーズとはなっていないのです。
水素供給インフラの欠如とその将来の道程が見えないことが、燃料電池OEMで生産し、プッシュしていこうという動きにならない大きな理由となっています。官民をあげて燃料電池を進めようとしている日本でさえも政府のロードマップは、2020年にわずか4万台の燃料電池車が走っているという控えめな見通しであるのに対して、電気自動車は2016年の年末時点ですでに10万台が道路を走っています。
消費者からの「引き」も欠落しています。テスラ3はゆっくりながらも商業生産を開始し、30万人も消費者が9ヶ月も先になるそのデリバリーを辛抱強くまっている状態です。現時点での電気自動車と燃料電池車の差は非常に大きなものがあります。
これらの不確定要素 (技術の選択、それを受け入れていくスピード、法規制、燃料補給のインフラなど)は、投資家が、プラチナは安過ぎるとか900ドル近辺のこの価格は間違いだという見方を受け入れることを阻止していると言えるでしょう。