米雇用統計で加速したドル相場買い・金相場売り
10月のドル建て金相場は1オンス=1,200ドルの節目を割り込み、今年の最安値を更新している。金相場は、昨年6月、12月にもこの1,200ドルを割り込む場面がみられたが、その当時は旺盛な現物需要や生産コスト割れに対する危機感が下値を支え、それから1年以上にわたって1,200?1,400ドル水準で方向性を欠く展開になっていた。しかし、足元では急激なドル高圧力を背景に改めて1,200ドルの節目攻略が試される展開になっており、取引レンジの切り下げが実現するか否かの分岐点に差し掛かっている。
今年の金価格を振り返ると、年明け直後にウクライナの地政学的リスクがクローズアップされた結果、3月17日には一時1,392.60ドルまで値位置を切り上げ、一部専門家からは金価格の底打ち論も広く聞かれるようになっていた。しかし、結局はウクライナ情勢によってグローバルな投資環境に劇的な変化が生じた訳ではなく、持続的な金価格の押し上げ要因にはならなかったことが確認できるステージを迎えている。
ウクライナ情勢と並行する形で、イラクからシリアにかけてイスラム国の勢力拡大、更には香港の民主化デモ、イスラエルとパレスチナの紛争激化など、今年は地政学的リスクの「当たり年」とも言える状況になっている。しかし、こうした地政学的リスクを背景に「安全資産」としての金需要を盛り上げることにも失敗しており、いずれも一時的な金価格の押し上げ要因に留まっている。
■9月米雇用統計で金売り加速
教科書的には「地政学的リスクの高まり=金価格上昇」となるのだろうが、やはりドル高のインパクトが大きかった。ドル相場は、対ユーロで今年8月の年間高値から既に10%を超える下落率を記録しており、ドルの通貨価値回復の動きと連動して、代替通貨・安全通貨としての金(Gold)市場からの資金流出傾向が加速している。
米国の金融政策は、リーマン・ショックとしての有事対応で導入した資産購入プログラムを、今月28?29日に開催される米連邦公開市場委員会(FOMC)において終結宣言する予定である。これまで購入した資産が直ちに売却される訳ではないが、少なくとも新規の資産購入は行われないことになり、ドルの大量供給時代は一つの転換期を迎えることになる。
加えて、異例な低金利政策についても「相当な期間維持する」との文言が見直される時期が近づいているとみられ、ドル増刷・低金利といったドルの通貨価値を毀損する時代の終わりが近づいている。この結果、「米金融政策の正常化→ドルの通貨価値回復→(ドルの代替通貨としての)金の通貨価値毀損」という大きな流れが続いている。
そして、この流れが加速するのか、または減速するのかを決定する基準として注目される米雇用環境が、想定以上の力強さを示したのが10月3日に米労働省より発表された9月雇用統計であった。
実は、この雇用時計では前月(8月分)に非農業部門就業者数が前月比+14.2万人に留まり、心理的な目安とされる20万人超の雇用創出に5ヶ月ぶりにブレーキが掛かっていた。このため、「本当に米雇用環境は金融政策正常化を支持するほどに力強いのか?」と疑問の声もあがっていた。しかし9月の非農業部門就業者数は前月比+24.8万人に達しており、加えて8月分も速報の+14.2万人から+18.0万人まで上方修正されている。また、失業率も前月の6.1%から5.9%まで低下し、2008年7月以来の低水準を記録している。
労働参加率の低迷状態が続いているといった懸念材料もあるが、今回発表された雇用統計はFOMC内のタカ派(=金融引き締め派)を勢いづかせるのに十分な内容であり、最近のドル相場高・金相場安の動きを加速させることに成功している。
■問われる金実需の実力
エボラ出血熱、中国経済の減速、米株式相場の不安定化、更には米金融緩和の縮小そのものが流動性環境に混乱をもたらすリスクといった不安要素もある。ただ、世界経済の回復がもたつく中、米国は英国と並んで利上げ競争の先頭を走っており、今後も何らかのテールリスクが発生することがなければ、粛々と米金融政策の正常化が推し進められる見通しである。
こうして金融政策・通貨環境から金価格の反発を促すことが困難になる中、10月はどこまで値下がりすれば「価格低下→現物需要拡大」のフローが、投機売り圧力と拮抗する状況になるのかを打診する展開となろう。1,200ドル割れという値位置が、短期現物需給構造に転換を迫ることができるのか、改めて金実需の実力が問われることになる。
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