イスラム国の邦人人質、原油相場急落の影響も
イスラム教スンニ派の過激組織「イスラム国(ISIS)」と見られるグループが、昨年にシリア入りしてから行方不明になった日本人2人を拘束している映像がインターネット上で公開された。動画では、日本政府に対して72時間以内に身代金2億ドル(約237億円)を支払わなければ、殺害すると警告されている。支払期限は日本時間23日午後になる模様であり、地政学的リスクの高まりが再確認できる状況にある。
身代金として要求されている2億ドルは、安倍首相がイスラム国対策として打ち出した無償資金協力の金額と同じであり、ISIS側からは「お金の問題ではない」といった声明も確認されている。ただ、日本政府によると昨年11月時点でISIS関係者を名乗る人物から家族に対して身代金要求があったことも明らかにされており、「金目(かねめ)」の問題である可能性も捨て切れない。
マーケットでは、昨年後半以降の原油相場急落が、ISISの財政環境悪化を招いていることが、こうした人質事件の発生を促したとの見方がある。昨年12月にイングランド銀行(英中央銀行)は半期に一度報告される「金融安定レポート」において、低経済成長と並んで地政学的リスクの高まりが金融システムに対するリスク要因になる可能性を指摘していたが、この「特定の地政学的リスク」が具体化した動きが、今回の人質事件の可能性がある訳だ。
イングランド銀行の「システム・リスク調査」によると、市場参加者の中で地政学的リスクを主要なリスクと回答した比率は、2013年上期の5.23%、下期の13.16%に対して、14年上期は56.94%、下期は65.75%まで急伸しており、原油価格の急落が地政学的リスクを高めると警戒する向きが増えているのは明らかである。現段階では、日本人人質事件がISIS内でどのように位置付けられているのか想像の域を脱しないが、原油相場安は石油消費国に経済的に大きな恩恵をもたらす一方で、政治的な不確実性を高めている。
■原油売却収入減少の代替財源としての人質
ISISは石油に関する詳細な統計を発表していないので精度の高い分析は難しいが、昨年11月に国際政治経済誌FOREIGN AFFAIRSは、1日当たり100万ドル(約1億1,900万円)の原油売却収入があるとの試算を発表している。マーケットでも、この水準が最低ラインであり、場合によっては300万ドルの可能性も想定されている。
もともと、ISISは国際原油相場を大きく下回る水準で原油販売を行っていたため、最近の原油相場急落によって直ちに原油売却収入の大幅な減少を迫られる訳ではない。原油相場が1バレル=100ドル水準で取引されていた当時でも、25?60ドル水準での売買報告が聞かれており、他の石油供給国ほどには厳しい環境に追い込まれている訳ではない。
ただ、米軍などの石油関連施設攻撃に加えて、国際原油相場が急落していることは、ISISの財政に何らかのダメージを与えているのは必至であり、「代替財源としての人質」という選択肢が浮上することになる。
現段階では論理的な「可能性」の段階に過ぎないが、過去の原油相場急落はメキシコ債務危機やソビエト崩壊など、政治・経済的に大きな混乱をもたらしている。原油相場の高騰は望ましいものではないが、急激な原油安の進行もまた、世界の不確実性を高めることになる。
【イスラム国の石油フィールドと支配地域】
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