高騰するパラジウム相場、低迷するプラチナ相場
貴金属市場で、パラジウム相場の急伸傾向が目立っている。NYMEXパラジウム先物相場では、急激なドル高環境にもかかわらず投機買いが膨らんでおり、3月に入ってからは昨年9月中旬以来の高値を更新している。東京商品取引所(TOCOM)の円建て価格に至っては、円安の支援もあって2001年2月以来の高値を更新している。
一般的に、プラチナとパラジウムは需要項目と供給項目の双方で共通する部分が多いため、似たような値動きになる傾向にある。例えば、生産地はともに南アフリカとロシアの2カ国に集中する一方、需要も自動車触媒やエレクトロニクス、宝飾加工品などほぼ共通している。コモディティ業界では、白金族(PGM)と両者を一括して捉えられることも多いマーケットである。
しかし、NYMEXプラチナ相場の方は値下がり傾向が続いており、こちらは2009年7月以来の安値を更新している。円建て相場は大きな値下がりこそ回避されているが、伸び悩み傾向が続いており、パラジウム相場との比較だとパフォーマンスの悪さが目立つ状況になっている。
ではなぜ、ここにきてパラジウム相場が上昇する一方、プラチナ相場が低迷しているのだろうか。
世界的な景気拡大基調が続く中、需要環境はともに良好である。中国経済の減速こそあるが、自動車触媒向け需要は主戦場となる欧州や米市場を中心に着実に伸びており、工業プラントやエレクトロニクス部門などでも、需要の底上げ圧力が報告されている。一方、生産は昨年上期に南アフリカで過去最大規模の鉱山ストライキが発生した影響が残されており、今なお需要をカバーするに足る供給量を確保するのが難しい状況が続いている。
その意味では、プラチナ相場の低迷が異常であり、パラジウム相場の上昇が通常の反応ということもできる。パラジウム相場に大きく出遅れたプラチナ相場は、買いなのだろうか。
<プラチナとパラジウムの違い>
答えは、「ノー」だと考えている。少なくとも、ドル建てベースのプラチナ相場については、寧ろ下落リスクの方が大きいと考えている。当然に円相場が急落すれば円建てプラチナ相場に対しては上昇圧力が強まることになるが、それでもパラジウム相場との比較では上値の重い展開が続く可能性が高い。
一つ目の根拠は、プラチナ相場の上値を強力に圧迫している「地上在庫」の存在である。貴金属は、石油や食料品などとは違い、需要家に消費されても地上から完全に消滅される訳ではない。それを専門用語で「地上在庫」というが、プラチナに関してはこの地上在庫が需給緩和を促している可能性が高いのだ。
この地上在庫の大規模供給が何時まで続くのかはプラチナ鉱山会社の間でも意見の隔たりがあり、アングロ・アメリカン・プラチナ(アムプラッツ)などは、今後は「地上在庫」の供給が先細りになるため、プラチナ相場は上昇必至との強気の見方を示している。しかし同業のインパラ・プラチナ(インプラッツ)の方は、少なくとも2016年までは「地上在庫」からの強力な需給緩和圧力が続き、プラチナ相場の低迷が続くとの見方を示している。
どちらの分析が正しいのかは今後の歴史が証明することになるが、少なくともパラジウムでは余り活発な動きを見せていない「地上在庫」の存在が、パラジウム相場に対してプラチナ相場のパフォーマンスを悪化させていることは間違いない。
そして二つ目の根拠は、同じ貴金属である金価格の影響力の大きさである。プラチナ相場は金相場との連動性が極めて強く、仮に「地上在庫」の影響が限定されるようになっても、金価格の低迷局面ではつれ安する傾向にある。
一方、パラジウム相場はプラチナ相場ほどに金価格動向の影響を受けづらく、金相場の低迷局面では「パラジウム>プラチナ」のパワーバランスになり易い。
プラチナ価格とパラジウム価格は、一般的にはプラチナ価格の方が高い傾向にある。2010?11年にかけては、両者の間には1オンス当たりで1,000ドルを超える価格差が存在した。しかし、足元では両者の価格差は350ドル前後まで縮小しており、このままの状況が続くと今年後半から来年前半にかけて、プラチナ価格とパラジウム価格がほぼ同じ値段で取引される可能性もあると考えている。
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