金価格急落と表裏一体の円安
安全資産の代表格である金(Gold)の価格が急落している。10月4日のCOMEX金先物相場は1オンス当たりで前日比43.00ドル安の1,269.70ドルとなり、6月23日以来で初めて1,300ドルの節目を割り込んでいる。TOCOMの円建て金先物価格も、7月20日の1グラム=4,540円に対して、10月5日の取引では一時4,200円台を割り込む展開となり、こちらは6月24日以来となる約3カ月ぶりの安値を更新している。
こうした値動きの背景にあるのは、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げに対して根強い警戒感があることだ。
年初からの金価格は、昨年12月に初回利上げに踏み切った米連邦準備制度理事会(FRB)が追加利上げに踏み切れない状況が続いていることを材料視して、総じて買い優勢の展開が続いてきた。FRBは昨年12月時点で、2016年中に4回(1.00%)の利上げを当局者の中心意見として提示していたが、実際には今年前半は1回の利上げもできずに終わっており、年内に1回の利上げもできない可能性までもが警戒された結果である。
しかし、9月20~21日の米連邦公開市場委員会(FOMC)では追加利上げの決定こそ見送られたが、声明文では「FOMCは利上げの根拠は強まっていると判断した」との文言を挿入することで、マーケットと早期利上げに向けてのコミュニケーション強化を図る姿勢を鮮明にしている。イエレンFRB議長は同会合後の記者会見において、「殆ど(のメンバー)がFF金利の即時引き上げの根拠が強まったと判断した」と更に踏み込んだ発言を行っている。
それでも年内利上げに確信が持てない状況から、8月中旬以降は1,300~1,350ドル水準で上値が重いものの下値を攻め切れない中途半端な相場展開が続いていた。9月28日の議会焦点において、イエレン議長が利上げに「決まったタイムスケジュールはない」と指摘して、年内利上げに確信が持てなかったことも、金価格を下支えした模様だ。
だが、10月3日に発表された9月ISM製造業指数は前月の49.4から51.5まで上昇し、活動の拡大・縮小の分岐点とされる50ポイントを上回ることに成功している。特に新規受注は49.1から55.1まで急伸しており、米経済のボトルネック化していた製造業部門の活動拡大に期待が持てる状況になっている。また、10月3日にはクリーブランド連銀のメスター総裁が、利上げを遅らせるべきではないとして、11月1~2日に開かれる次回のFOMCで利上げを支持する方針を表明している。4日には、リッチモンド連銀ラッカー総裁も、早期利上げに理解を示す発言を行っている。
10月7日には9月米雇用統計の発表を控えており、仮にここで強めの数値が出てくると、年内利上げの可能性は更に高まる可能性があり、その可能性に対する警戒感が金価格を約3カ月ぶりの安値まで押下げたとみて良いだろう。米金融政策が正常化方向に向かうのであれば、敢えて無金利・無配当の金(Gold)で購買力を防衛する必要性は乏しく、国際基軸通貨であるドルを保有しておけば何ら問題がないためだ。
■金価格下落=ドル高=円安
こうしたドル建て金価格の下落は、換言すれば金市場からドルに対する資金シフトが発生していることを意味し、ドル/円市場では円安・ドル高圧力として機能することになる。9月下旬以降は緩やかな円安・ドル高圧力が確認されているが、こうした金価格の値動きと合わせて考えると、ドルの影響力に支配された相場環境が続いていると言えそうだ。
現在議論されているのは、あくまでも1回の追加利上げをどの時点で消化するかとの問題に過ぎず、その後の断続的な利上げサイクルまでもが想定されている訳ではない。寧ろ、実際に利上げが実行されてしまえば、昨年の初回利上げ後と同様に金価格の上昇、ドル安・円高が観測される可能性の方が高い。ただ、まずは追加利上げ問題の消化が求められており、追加利上げの方向性が相場に織り込まれるか、追加利上げそのものが破たんするような状況になるまでは、金価格に下落圧力、ドルに上昇圧力(円に下落圧力)が働き易い地合が続くことになる。
10月9日には米大統領選挙の二回目となる討論会も控えているため、その内容と9月米雇用統計の結果次第では、8~10日の連休明け後の金価格やドル/円相場環境は大きく変わっている可能性もありそうだ。
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