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朝鮮半島有事に備えた金価格上昇が始まった?

安全資産の代表格である金価格が急伸している。米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げが強く警戒された3月10日には1オンス=1,194.50ドルまで値下りしていたが、3月末から4月初めにかけては1,250ドル水準まで切り返し、直近の4月11日終値では1,274.20ドルまで上昇している。これは昨年11月10日以来となる、約5か月ぶりの高値を更新していることを意味する。



4月の金融市場では、突然に「地政学的リスク」が中心テーマに躍り出た感が強い。これまでは、米国のトランプ政権、欧州の反ユーロや反移民政策への傾斜といった、個別国の政治リスクがテーマになっていた。しかし、より広範囲にわたる地政学の視点から、政治リスクを再評価する動きが広がっている。

直接的なきっかけは、4月7日に米軍がシリアのアサド政権に対する攻撃に踏み切ったことだった。シリア問題は複雑化しており、これまでも化学兵器使用の可能性は指摘されていたものの、米国はどのような対応を講じるべきなのか頭を悩ませていた。しかし、トランプ政権があっさりと軍事介入を決定したことで、シリアのみならず中東地区全体の地政学的環境が大きく変化するリスクが浮上しているのだ。

何か具体的に大きなトラブルが発生している訳ではないが、米露関係、米中関係、中東産油国間の関係など、連鎖的に複雑な化学変化が浮上する可能性が、投資家マインドの悪化を促している。原油相場のように逆にリスクを織り込む形で上昇している資産クラスもあるが、マーケット全体としては積極的なリスクテイクが難しくなっており、世界的に株式相場の上値の重さなども報告されている。円売り・外貨買いのオペレーションも巻き戻され、国内市場では円高連動で日経平均株価も年初来安値を更新している。

そして、ここにきて新たな地政学的リスクとして注目度が高まっているのが、北朝鮮情勢である。日本の投資家はともかく、世界的には北朝鮮情勢というのは余り重大な関心が払われてこなかった相場テーマだった。極東の独裁国家が暴走しても、欧米の投資環境に大きな影響はないとみられていたためだ。あくまでも遠く離れた世界の話であり、瞬間的にアジア市場が反応を見せても、それで欧米株が急落するようなことは殆どなかった。

しかし、今年は朝鮮半島有事のリスクが欧米マーケットも刺激しており、こうした中で表面化した一つの現象が金価格の急伸である。北朝鮮のミサイル実験などは従来から何度も繰り返されていたことだが、核開発が進み、更には米本土も射程圏内に入れるミサイル開発も進む中、ついに朝鮮半島有事のリスクが無視できなくなったのが2017年と言えそうだ。マーケットが、リスクとしての一戦を超え始めたとの評価に傾き始めたのである。

もちろん、朝鮮半島有事が実際に発生するのかは分からない。ただ、かつて東西冷戦が深刻化した1970年代などには、核戦争によって通貨が通用しなくなるようなリスクも警戒される中、世界の投資家が安全通貨として金を購入する動きを活発化させた。金価格の値上がりや値下りは問題ではなく、万が一の時代にも購買力を維持するために、法定通貨を金に「両替」したのである。戦争によってドルが通用しなった際にも、食糧などを購入できるマネーとして、金を退蔵しておきたいとのニーズが高まっていた。

現在の高度化した金融環境でこうした金の必要性はないといった議論もあるが、歴史的な高値圏にある米国株なども万が一の事態になると急落するリスクがあり、そうしたパニック的な事態に備えるためにも、資産の一部を金で保有しておきたいとのニーズが高まり始めている。こうした投資家の金選好性の高まりは杞憂に終わることが望ましいのだろうが、安全資産である金価格の上昇圧力が強くなっていることは、少なくともマーケットの世界では朝鮮半島有事へ対応する必要性があると考えている向きが増え始めていることを示唆している。

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プロフィール

小菅 努

Tsutomu Kosuge

マーケットエッジ株式会社 代表取締役

1976年千葉県生まれ。筑波大学卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト・東京商品取引所認定(貴金属、石油、ゴム、農産物)。

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