コミー前長官の大統領批判を乗り越え、米国株は過去最高値更新
コミー前連邦捜査局(FBI)長官が上院情報委員会の公聴会に出席し、いわゆる「ロシア・ゲート」問題についての証言を行った。同証言に関しては、前日の6月7日段階で声明が出されており、事前に報道済だった内容が大半であり、マーケットは目立った混乱を見せなかった。
コミー前長官はトランプ米大統領が自身の解任などで「嘘(lies)」をついたと厳しく批判し、更にはロシアの米大統領選介入疑惑について捜査中止要請があったことも明らかにした。ただ、司法妨害や捜査妨害といった大統領弾劾にもつながりかねない核心部分については明確な態度を示さず、メディアでは改めて大統領批判が活発化したものの、マーケットはこの問題を比較的冷静に消化しており、幕引き方向に向かいたいとの意向を強く示している。
安全資産の代表格である金相場は前日比13.70ドル安の1オンス=1,279.50ドルと急落し、コミー証言を前に先行き不透明感から金を購入していたファンド筋が、手仕舞い売りに動いている可能性が高いことを強く示唆している。一方、米株式市場ではダウ工業平均株価が一時的ながら過去最高値を更新しており、懸念されていた一つのイベント・リスクが少なくとも投資家の視点では良好な結果に終わったとの評価が明確に示されている。
これを象徴するのが、トランプ米大統領誕生後に同政権の政策期待から急伸していたいわゆる「トランプ銘柄」に対して買い圧力が強まったことだ。6月8日の米株式市場におけるダウ採用銘柄を見てみると、上昇率上位は建機キャタピラーの1.5%高、金融ゴールドマン・サックスの1.4%高、同JPモルガン・チェースの1.2%高、航空・防衛ボーイングの1.0%高などとなっている。キャタピラーはトランプ政権のインフラ投資拡大、ゴールドマンとJPモルガンは金融規制緩和、ボーイングは海外への武器販売など、トランプ政権の恩恵が大きいと言われている銘柄である。
世論調査ではトランプ大統領の支持率は40%を割り込むなど、大統領を取り巻く環境は厳しさを増している。しかし、マーケットでは「どうなるのか分からない」との政治的なノイズ(騒音)が一つずつ解消される動きと連動して、それが政治的に好ましい好ましくないの議論とは別に、経済ファメンタルズに焦点をシフトさせている。
米経済に関しても、6月2日に発表された5月雇用統計の伸びが想定を下回り、経済成長が続いてもインフレ率が逆に下振れし始めるといったリスク要因を抱えている。ただ、全体としては景気底上げとそれに連動した企業業績環境の上振れという大きな流れは維持されており、政治的な不確実性が緩和された局面では、上昇余地を着実に拡大させている。不安定な政治環境は今後も突発的なリスクオフ化を招く可能性が高いが、政治リスクの高まりと株価上昇が共存できる環境が実現している。
そして、こううしたリスクオン環境にもかかわらず金価格が年初の1,151.40ドルを大きく上回る1,200ドル台後半という値位置を維持していることは、リスク資産購入の一方で、万が一の保険として金のポジションも保有しておきたいとの投資ニーズがい未だ残されていることを示している。リスク資産を購入すると同時に安全資産も購入する投資行動が、トランプ大統領誕生後のトレンドである。
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