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金価格が急落している理由

内外の金価格が急落している。COMEX金先物相場は、4月上旬に1オンス(約31.1035グラム)=1,550?1,600ドルのレンジで取引されていたのが、4月12日には前日比-63.50ドルの1,501.40ドル、15日には同-140.30ドルの1,361.10ドルとなり、2011年2月以来の安値を更新している。2営業日累計の下げ幅は203.80ドル(13%)に達しており、15日には1営業日としては1980年3月17日以来で最大の下げ幅を記録している。

こうした状況はTOCOM金先物相場も同様であり、4月11日には1グラム=5,078円まで値位置を切り上げていたのが、15日には前日比-410円の4,590円と急落し、16日午前は更に4,200円水準まで下げ幅を拡大している。いわゆる「アベノミクス」で急激な円安が実現する前の昨年10月時点の価格水準が4,400?4,500円であり、僅か2営業日で過去5ヶ月分の上昇幅を相殺する急落となったことが確認できる。



■米金融政策の転換を先取りする

 とは言っても、何か突発的なネガティブ材料があった訳ではない。今回の急落劇に関しては、昨年まで「12年連続で続いてきた(ドル建て)金価格の上昇相場が終わった」という、マクロな投資判断が強く影響したと考えている。

日本では、異次元金融緩和策の展開がまさに始まったばかりであり、デフレ脱却の裏側展開として円の通貨価値を毀損する動きが本格化しつつある。それが円安と円建て金価格急騰の背景だった訳だが、量的緩和政策を世界に先駆けて展開してきた米国では、現行の大規模な金融緩和策のコスト・ベネフット分析が活発化しており、早ければ年央に毎月の資産購入規模を縮小し、年末から来年初めにかけて資産購入そのものを停止するといった議論が活発化している。

実際に量的緩和政策の「出口」が実現可能なのかは議論のある所だが、少なくともドル紙幣の大量増刷体制にブレーキが掛かり始めていることは間違いなく、金市場ではドルの通貨価値を毀損する動きがピークに達する流れを先取りして織り込み始めている。

株式市場が世界的な緩和圧力を織り込んで上昇トレンドを維持していることや、米国債利回りが依然として低迷していることと比較すると、こうした金価格の値動きに対しては違和感が強い。金市場の時間軸のみが、他マーケットに先行して進んでいることを正当化することは難しい。

しかし、国際機軸通貨であるドルの通貨価値と逆相間関係にある「通貨としての金」にとっては、強力な逆風が吹き始めていることは間違いない。

金上場投資信託(ETF)市場では、株式ETF市場への資金シフトも活発化しており、今年に入ってからは既に累計で249.5トンもの資金流出が確認されている。これは、年間新産金の8.8%にも相当する規模であり、金需給バランスの悪化もボディーブローのように金価格の上値圧迫要因になっている。

■株高でも軟調な商品市況

 しかもタイミングの悪いことに、商品市況全体が調整色を強めている。4月15日に発表された中国の1?3月期国内総生産(GDP)は、昨年10?12月期の+7.9%から+7.7%まで減速したが、新興国経済の回復の鈍さが、株高にもかかわらず商品市況の低迷をもたらしている。

商品市況の低迷は、換言すれば通貨価値の増強が進んでいることを意味し、上述のように政府発行通貨の価値との逆相間関係にある金価格は下振れし易い環境になっている。すなわち、金価格の水準を切り下げたとしても、「通貨としての金」は従来と同様の購買力を維持できる環境になっている。

高騰する株価に対して原油価格の出遅れなどが指摘されていたが、先進国経済と新興国経済のデカップリングが、金価格の上昇余地を限定している。

■著名投資家、大手金融機関の弱気見通し

 こうした状態は4月12日に突然に始まった訳ではないが、4月7日には著名投資家ジョージ・ソロス氏、10日には大手金融機関ゴールドマン・サックス社が金価格にネガティブな評価を示したことが、急落相場のトリガー(きっかけ)になった模様だ。ちなみに、ゴールドマン・サックス社の場合は、1,450ドルをターゲットとした売り方針を推奨しており、既にこの目標価格に到達している。

従来のこうした急落局面では、アジア地区の現物需要が下値を支える傾向が見受けられた。今年2月の急落局面でも、「欧米投機売り」と「アジア現物買い」との対立構造が下値をサポートした。しかし、今週はアジア時間にさえ反発が実現しておらず、アジア現物需要が欧米投機売りを吸収仕切れていないとの懸念が、下落ペースをエスカレートさせている。



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プロフィール

小菅 努

Tsutomu Kosuge

マーケットエッジ株式会社 代表取締役

1976年千葉県生まれ。筑波大学卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト・東京商品取引所認定(貴金属、石油、ゴム、農産物)。

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