ゴールドコラム & 特集

銀市場でショート・スクィーズ、金融機関に立ち向かうオンライン個人投資家

オンライン掲示板「レディット(reddit)」に集まる個人投資家が、米株式市場に混乱をもたらしているが、その混乱が商品市場にも波及している。対象となっているのは銀相場であり、NY銀先物相場は1オンス=25ドル水準での保ち合い相場から、週明け2月1日の取引では30ドル台に乗せる展開になっている。

「レディット」上で情報交換を行う個人投資家は、ヘッジファンドが売り込んでいる銘柄に対して数にものを言わせた買いで向かい、損失に耐えられなくなったヘッジファンドにショートカバー(買い戻し)を迫る形で株価急騰を促す取引を繰り返している。これを専門用語で「ショート・スクィーズ」と言うが、個人投資家がヘッジファンドを打ち破る事例が次々と発生し始めている。

この対象に銀も含まれるようになっており、個人投資家が銀上場投資信託(ETF)、銀現物、銀先物、更には銀鉱山会社株に大量の資金を流入することで、銀市場でもショート・スクィーズが発生している。

「レディット」上で銀買いを呼び込むきっかけになった投稿では、「銀は世界最大のショート・スクィーズ」になるとして、価格が25ドルから1,000ドルまで、一気に40倍に膨れ上がると具体的な目標価格まで投稿されている。

一応は、鉱山生産の伸び悩み、太陽光パネルや電気自動車向け需要の拡大といった影響も指摘されている。ただ、この投稿のポイントは、大手金融機関が価格操作によって銀を実態とかい離した安値圏に抑制しているというものであり、金融機関に買い向かうことでショート・スクィーズを引き起こせば、本来あるべき1,000ドルまで価格が上昇するとしている。

こうした価格操作の議論は、過去に幾つかの金融機関が規制当局と和解するなど、全く根拠のないものではない。ただ、「レディット」に集まる個人投資家は銀市場を周知している訳ではなく、価格操作が行われている、太陽光パネル用需要が急増するといった分かり易いテーマに飛びつき、銀相場の急騰を促している。

銀は実体経済で売買されているコモディティのため、株価のように瞬時に何十倍まで値上がりすることが可能な資産ではない。ただ、金のように世界的に十分な流動性が確保されているマーケットではないため、個人投資家の断続的な買い圧力に、ヘッジファンドなどは売りポジションを維持できない状態になっており、ショート・スクィーズが発生している。

こうした不自然な価格高騰は、需要家の買い控えやリサイクル供給の増加を通じて、価格を鎮静化させようとする力を発生させることになる。不自然な価格高騰が本格化すると、その後は長期停滞するリスクを高めることになる。ただ、「レディット」に集まる個人投資家は仕手戦を情報公開した状態で行っているような状態にあり、更に銀市場の混乱状態が続く可能性がある。

昨年は個人投資家の金上場投資信託(ETF)人気が金相場を過去最高値まで押し上げる一因になったが、今年は銀市場を舞台に個人投資家の活発な売買が行われている。貴金属市場では個人投資家の売買動向が無視できない影響力を持ち始めている。


マーケットエッジ

プロフィール

小菅 努

Tsutomu Kosuge

マーケットエッジ株式会社 代表取締役

1976年千葉県生まれ。筑波大学卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト・東京商品取引所認定(貴金属、石油、ゴム、農産物)。

最新コラム

新着ゴールドグッズ

一覧を見る