London Gold Fixingの終焉とLBMA Gold Priceの始まり
2015年3月19日に1919年から続き100年近くの伝統があるLondon Gold Fixingが終わりを迎え、3月20日からそれに代わる「LBMA Gold Price electronic system」が始まります。この背景については、昨年2014年6月25日の「転機を迎えるロンドンフィキシング」と同8月13日「ロンドンフィキシング続報」に書きました。シルバー及びPGMフィクシングはもはや新しいシステムに移行しており、ゴールドがその最後になります。シルバーはロイターとCMEのシステム、PGMはLMEのシステムにより、Fixingの代わりとなる価格が毎日決められています。そしてゴールドはICEのシステムでこの新しい価格が決められるということになりました。ゴールド、シルバー、PGMでまったく違うシステムを使うというのも非常に違和感がありますが、それが時代の流れなんでしょう。Fixingという売買手法自体が、一般に批判されているような不正の温床になってきたとは思いません。LIBORのように参加銀行の自己申告でのレートセットではなく、少なくとも日本語でいう「競り」売買であり、そこでは売買の需要と供給で価格が決まり、Fixing memberの恣意的なコントロールはなかったと僕は思います。ただ、四社のFixing memberを通じてしか取引できないという形態は、世界中からの売り買いの注文がこの4社に集中し、この4社は自分のところに来るオーダーは当然のことながら、すべて見られるわけで、この情報は確かにFixing memberであることの非常に大きなメリットであったと思われます。その意味では新しいシステムに移行し、誰もが直接システムに注文を入れることができるようになってこそフェアな取引と言えるのかもしれません。
さて、この原稿を書いている数日後には始まるLBMA Gold Priceですが、そのDirect Participants (システムに直接アクセスできてオーダーを入れることができる人、昔でいうFixing member。と言ってはいけないのですが。。笑。日本語訳すると「直接参加者」でしょうか。)が誰なのかがまだ正式に発表されていません。しかしながらおそらくそのメンバーとなるのは、現在のFixing memberである Barclays, HSBC, Scotia MocattaそしてSociete Generalの4社は確実だと思われます。そしてこの4社に加えてJP Morgan、UBS、Credit Suisse、Goldman Sachs、Mitsui、CitiCorp、Morgan StanleyそしてStandard Charteredなどロンドンマーケットの中心的なメンバーが直接参加者になるのではないでしょうか。このメンバー及びシステムの議長はどうやら実際にこのシステムが稼動する20日まで発表されないようです。当日まで発表しないということになんのメリットがあるのか正直よくわかりません。当日は発表されたらこのメンバーの中にも登録していない会社もある可能性も大きくあり、またこれ以外の会社、例えばCommerzbank、Natixis、ANZ、Standard Bank、BNP Paribasがメンバーに登録されている可能性もあります。こればかりは実際のメンバーが発表されるまでわからないというのが正直なところです。
そして現在おそらくマーケットのもっとも大きな関心事は中国の銀行がこの新しいシステムの直接参加者 に入っているのかどうかです。Bank of China(中国銀行)、Industrial and Commercial Bank of China (ICBC;中国工商銀行)そしてChina Construction Bank(中国建設銀行) の3行は、もはやロンドンゴールドマーケットとのかかわりも深く最初からこの直接参加者となっていてもおかしくない資格を有しており、実際この3行は参加希望の意思をはっきりさせています。マーケットにはこの「中国」の参加に関していろいろな意見が出されています。これらの中国の銀行はそもそも「国有」の銀行であり、中国のゴールドマーケットに対する影響力の増大を懸念する声は多く、このシステムに彼らを直接参加させることにより、中国の国としての政策が色濃く反映されるようになるのではないかという心配です。(一部の批評家の中には中国と現在ゴールドの保有高を増やしつつあるロシアによるゴールドマーケットの支配、とまで言っている人がいます。)僕は中国が国家として世界のゴールド市場をコントロールしようなどという意思はまずないと思いますが、ここ数年、中国のマーケットが世界のマーケットに与える影響は無視できぬほど大きなものですし、世界一のゴールド生産国としても世界一のゴールド消費国としても、この新しいLBMA Gold Price の直接参加者になることは大いに意義のあることだと思えます。直接参加者になるための条件を調べてみると以下の通りでした。
・LBMAのFull member(Ordinary or Market Making)であること。
・Loco London Accountを持っていること。
・LBMAの許可を受けること。
・システム運用会社の運用上のルールを受け入れ、実行すること。
中国の上記3行はみんなLBMAのOrdinary memberであるので問題なし。当然のことながらLoco London Accountも持っています。(Ordinary memberであるということは、ロンドンで取引を行っており、その決済のためにはLoco London accountが必要です。)そしてその他の要件に関しても問題なくクリアしており、おそらくは結局LBMAが認めるかどうかというところにかかってくるように思われます。そしてこれらの基準を満たしている以上、中国の銀行を直接参加者として参加することを拒否する理由は見当たりません。
もう一つのポイントとして、先に始まったシルバーも今度はじまるゴールドも、この新しい価格設定の際の取引はOTC(相対)の取引となり、直接参加者は全員が全員と取引できるような十分な与信枠をお互いに与えられる必要があります。これもまた中国の銀行は預金規模では世界でももっとも大きな銀行でもあり問題はないでしょう。本来ならばせっかくのシステムでClearing house方式にして与信の問題をなくすと言うほうがシンプルで、安全上もよいと思うのですが、LBMAがOTCに固執した理由は、与信的規模の小さな中小の参加者が直接的に参加することを防ぎたかったのかもしれませんね。
とにかく今週金曜日の新しいシステムのスタートと同時に、その直接参加者の名前とこのシステムの議長が発表される、ということのようです。ちなみにシルバーの場合は最初は3社(HSBC、Scotia Mocatta、Mitsui)でスタート、その後UBSとJP Morgan、そしてTronto Dominion Bankが参加して現在はこの6社が直接参加者です。
3月20日。どのようなメンバーがこのLBMA Gold Price electronic systemに参加するのか、その中に中国の銀行が含まれるのか。気になるところです。
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