Vol.3-神聖ローマ帝国の誇り、ルドルフ2世の王冠
17世紀初頭、神聖ローマ帝国(ハンガリーとボヘミア)の皇帝であったルドルフ2世は、目もくらむような贅沢な宝石が散りばめられた黄金色の王冠を愛したといわれています。皇帝がヨーロッパの金細工職人に個人的に作らせたというこの王冠は、オーストリア国家の戴冠の象徴として、悠久の輝きを放ち続けています。
■最高の金細工師の技を求めて
ハプスブルク家の神聖ローマ帝国に君臨したルドルフ2世(1552?1612)は厳格なカトリック教徒でした。
1576年、ルドルフ2世は皇帝に即位しましたが、国政を重臣にまかせきっており、明確な政策が徹底されていなかったため、大規模な反乱が発生するなど、政治能力に関しては欠如していたともいわれています。
しかし、彼は高い教養と文化・芸術に対する深い理解によって評価されました。神聖ローマ帝国の首都プラハには、欧州各地から多くの芸術家が集まり、文化的には大きな発展を遂げました。
また、ルドルフ2世は、神への誓いを証明する自分の理想の王冠をつくるために、アントワープから高度な技術を持つ金細工職人を自らの住居地であるプラハへ招きました。
■宝石の輝きに込められた王冠への思い
この王冠は、輝く宝石の美しさと精緻な金細工によって、最も芸術性に優れていると同時に高いデザイン性を兼ね備えています。
4つの球面三角形には帝国の覇権の役目と権利が示されています。白ゆりの紋章がある飾り輪には、キリストの象徴であるダイヤモンドが8個王冠を囲んでい ます。輪郭をやわらかな光で囲む真珠の列は、精巧なエナメル細工とともに黄金の王冠の輝きを一層美しく際だたせています。
また、王冠のトップにはサファイア、センターにはルビーがきらめき、さらにはパールが散りばめられ、黄金冠の輝きに彩りを添えています。
ルドルフ2世は、自身の神聖ローマ帝国と神への敬虔な気持ち、そして芸術への敬愛をこの王冠に込めたのです。