ゴールドコラム & 特集

中国の金融逼迫で、安全資産のゴールドが売られる意味

中国の短期金融市場の混乱を受けて、同国の金融逼迫に伴うリスクにグローバル・マーケットが揺れている。中国の短期金利は年初から概ね2?4%前後で推移していたのが、今月に入ってから突如上昇傾向を強め、6月20日の取引では一時過去最高の13%台を記録している。足元では漸く5%程度まで低下してきているが、それでも企業の資金調達環境への影響は避けられない状況にある。



こうした流動性供給を引き締める目的は、シャドーバンキング(影の銀行)を通じた非公式のマネー膨張に歯止めを掛けることにあり、習近平指導部が、金利上昇による実体経済へのダメージよりも、中国人民銀行のコントロールできないマネー膨張に対する警戒感を強めていることが窺える状況にある。

ただ、25日に中国人民銀行が一部銀行への資金供給実施を公表するなど強硬姿勢を修正する動きも見せており、人民銀行の「本気度」を掌握しづらくなっていることが、リスクマーケット全体の乱高下を促している。自らの影響力の大きさに驚いて日和るのか、それとも腐敗一掃に突き進むのか、目先は中国人民銀行の一挙手一投足から目が離せない状況になっている。

足元では株価急落傾向に一応の歯止めが掛かっているが、銀行が理財商品の購入に伴う貸し出しを無事に回収できるのか、それが可能であったとしても理財商品の償還が出来るのかなど、今後も多くのハードルが横たわっている。「中国版サブプライム問題」とも言える状況であり、金融機関の管理でこうしたマネーの暴走を管理してソフトランディングを実現できるのか、中国人民銀行の手腕が問われる局面になる。

■欧州のドル流動性危機と共通する動き

本来、こうしたリスク投資環境の悪化局面では、「安全資産」である金相場が買われるというのが教科書的な解説になる。6月24日の取引ではシカゴ・オプション取引所(CBOE)の恐怖指数(ボラティリティ指数)が今年の最高値を更新しているが、リスク資産から安全資産への資金シフトが発生すれば、金価格は上昇するというのが通常の理解になる。

しかし実際には、東京商品取引所(TOCOM)の金先物相場は1グラム=4,000円を完全に下抜き、昨年6月4日以来の安値を更新している。これは、「アベノミクス」開始前の価格水準を下回っている。また、ドル建て金価格も1,250ドルの節目を下抜き、2010年9月以来の安値を更新している。中国の流動性危機を背景に「安全資産」として買われるどころか、逆に中国株などリスク資産の軟調地合に連動して下値を切り下げている。すなわち、少なくとも足元のリスクに対しては、「安全資産」としての機能を果たせていないことは明らかである。



このため、金の安全性神話は崩壊したといった指摘も多く見受けられるが、実際にはこうした流動性危機の局面で金相場が売られるのは決して不思議なことではない。投資家のリスク許容度が低下していることが、金売りを促していることも否定はしない。ただ、それ以上に重要なのは、こうした流動性危機において安全資産である金は、流動性を確保する手段になり得ることだ。むしろ、こうした流動性危機の環境においても、金を売却すれば容易に流動性を確保できるという点こそが、金の持つ安全性の本質である。

実際、今回と同様の動きは欧州債務危機のエスカレートした局面でも観測されている。2011年後半には大手金融機関の破綻などからロンドン銀行間取引金利(LIBOR)が急伸しており、ドルの資金調達が極めて困難な状況に陥った。こうした局面で欧州系金融機関は、手元保有の金を売却することで、間接的にドルの流動性を確保する動きが報告されていた。その当時は、金のフォワード・レート(GOFO)が急落して、金リースレートが急伸したが、足元ではそれに近い動きが観測されている。



実際に、今回の人民元に対する流動性逼迫を受けて、流動性確保目的の金売却が行われたのかは現時点では確認がとれない。ただ、こうした流動性危機において金相場が売られるのは、なんら安全性を巡る議論とは関係のない動きであることを確認しておきたい。むしろ流動性危機で金価格が下落することこそが、金の安全資産性を象徴する動きと考えている。

今回の流動性ショックは人民元というローカル通貨に限定された動きのため、欧州債務危機でLIBORが急伸した時のような混乱状況に発展するリスクは限定されている。ただ、マーケットが今回の流動性ショックの深刻度をどのように認識しているのかを把握する指標として、金価格に注目するのは有効と考えている。もっとも現在の相場環境においては、流動性ショックが緩和されたからと言って金価格が上昇するかといえば、それはまた別問題になる。

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マーケットエッジ

プロフィール

小菅 努

Tsutomu Kosuge

マーケットエッジ株式会社 代表取締役

1976年千葉県生まれ。筑波大学卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト・東京商品取引所認定(貴金属、石油、ゴム、農産物)。

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