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FOMC後の金価格が40ドル超の急騰となった真相

6月17?18日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)から一夜明けた19日のCOMEX金先物相場は、前日比+41.40ドル(+3.3%)の1オンス=1,314.10ドルと急伸地合を形成した。5月22日以来、約1ヶ月ぶりに1,300ドルの大台を回復すると同時に、4月15日以来の高値を更新している。

この金価格の急伸をどのように考えれば良いのだろうか。

急伸相場のきっかけが前日のFOMCであったことは否めない。毎月の資産購入金額を7月から更に100億ドル減額することが決定されたが、量的緩和(QE)の終了後に想定される利上げについて、依然として明確なメッセージを発しないことが、金価格にポジティブな影響を及ぼした可能性が高い。

声明文では「極めて緩和的な金融政策スタンスが引き続き適切」と総括する一方、イエレン米連邦準備制度理事会(FRB)議長はQE終了と利上げ開始までの時期について明言を避けており、今秋に確実視されるQE終了後も、当面は異例な低金利政策で景気刺激を継続する可能性を意識せざるを得ない状況になっている。

もっとも、これが金価格を40ドル以上も押し上げる値動きを正当化させるような内容だったのかは疑問視している。1,300ドルの節目突破でチャート主導の値動きが相場の勢いを加速させたことを考慮に入れても、株式・債券・為替相場などの動きとは整合性が取れておらず、かなり違和感がある値動きになっている。仮に、FOMC後に米長期金利が急低下し、ドルが急落するような動きが見られたのでれば、金価格の急騰は正当化できる。しかし、米長期金利は6月初めからのボックス圏内で若干低下した程度であり、ドル相場も特に大きく下落している訳ではない。

確かに、QEと利上げ開始との間には多くの時間を想定せざるを得ない。しかし、それでも改めてQE拡大などを志向する局面にはなく、金融政策の流れはあくまでも引き締め方向に展開している。実際に、FOMCメンバーの経済予測をみても、16人中12人が2015年の利上げ開始を予測しており、金融政策環境を理由に金相場を買い進む理由は全く見当たらない。

■含み益から含み損への恐怖

では、なぜ他マーケットとの整合性を無視してまで金価格は急伸したのだろうか。

この問いかけの答えとしては、やはりイラク情勢の影響が大きいと考えている。ドル建て金価格は、2ヶ月近くにわたる1,300ドル水準での保ちを経て、6月初めには1,250ドル水準まで値位置を切り下げていた。北米の寒波、ウクライナ情勢、中国の理財商品問題などの「一時的要因」を背景とした買い圧力が一服し、漸く改めて売り込む動きが強くなっていた。COMEX金先物市場におけるファンドの売り残高は、過去3週間で約50%もの急増となっている。

しかし、このタイミングで「イラク情勢の緊迫化→原油相場高→金価格上昇」という新たな相場ロジックが生じる中、金市場の売り方ファンドはポジション整理を迫られていた。原油価格と連動したじり高の展開にポジションをクローズするか否かの判断を求められていたが、FOMCをきっかけに50日移動平均線(1,284.90ドル)、100日移動平均線(1,297.90ドル)などを上抜く中、含み益から含み損への転換を警戒した売り方ファンドが一斉に玉整理に動いた結果が、金価格の上昇幅を異常なレベルまで拡大させたというのが真相だろう。

■やはり大きいイラク情勢のインパクト

このため、FOMCをきっかけに改めて投機マネーが金市場に流入するとは考えていない。あくまでも売り方のポジション調整を促すきかっけであり、これが「通貨としての金」の購買力増強に機能する可能性は殆どない。短期流動性環境が売り圧力にブレーキを掛けることはあっても、金価格が他商品市況のパフォーマンスを上回る必要性は見出せない。

ここから注目すべきは、やはりFOMCの評価よりも原油を筆頭とした商品市況の動向になるだろう。金融政策環境の劇的な変化が想定しづらい状況になる中、金価格と商品市況全体のトレンドは比較的バランスの取れた状態が続くと考えている。

このため、イラク情勢を手掛かりに原油価格が更に急騰したり、天候相場期を迎えた穀物相場の急騰などがあれば、購買力指標としての金価格に対しても素直に押し上げ圧力が強まり易くなっている。例えば、COMEX金価格とWTI原油価格の比価は19日終値時点で12.3倍となっており、現在1バレル=106.43ドルの原油価格が110ドルまで急伸するような動きが見られると、金価格は1,353ドルまで更に値位置を切り上げる計算になる。

現在、イラクではイスラム教スンニ派武装勢力の攻撃が南部の油田・石油輸出ターミナルにまで波及するか否かの瀬戸際にあり、原油価格は高値圏で不安定な値動きを強いられている。何か原油価格を更に引き上げるような一報があれば、金価格は容易に値上がりするリスクを有していることを確認しておきたい。3月にウクライナ情勢を背景に金価格が高騰した時に、極めて近い相場環境が実現している。

金価格の弱気の基調判断が修正を迫られる状況にはないが、まずはイラク情勢の消化が必要とされている。金価格急騰は、FOMCから強気のメッセージを受け止めたというよりも、イラク情勢の対する危機感を反映したものと評価すべきと考えている。



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プロフィール

小菅 努

Tsutomu Kosuge

マーケットエッジ株式会社 代表取締役

1976年千葉県生まれ。筑波大学卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト・東京商品取引所認定(貴金属、石油、ゴム、農産物)。

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