金価格に影響を与えるもの
「ロシアとウクライナの紛争は、安全資産の需要を高めた」とブルームバーグは解説しています。「ウクライナ危機を伝えるニュースは金価格を押し上げる重要な要因であった」とある銀行のアナリストは述べています。
ここで、ブリオンボールトのリサーチ主任エィドリアン・アッシュが、今週月曜日まで上げ続けていた金価格の動向について解説しています。(この記事は3月13日に執筆されたものです。)
北大西洋条約機構(NATO)が、AWACS(早期警戒管制機)を配置したことは、重大なことに見られます。そして、ジョン・ケリー米国務長官が、ウラジーミル・プーチン露大統領との話し合いを拒否したこと、クリミア自治共和国の住民投票の結果、ウクライナがロシアに編入されること、そして、キエフのウクライナ政府が、既存の国家警備隊の規模184,000人に60,000人の兵士を新たに加え、2009年以来の水準へと高めたことも大きなニュースでしょう。
地政学的リスクのために金価格が上昇するのであれば、その状況は危機的なものといえるでしょう。そのため、銀行のアナリストや新聞の見出しに惑わされるべきではありません。通常金価格に大きな影響を与えるものは、紛争ではなく金利であるのです。
イラク、ボスニア、セルビア、イラクなどの紛争は、金価格を動かすことはありませんでした。2008年のロシアの南オセチアへの侵攻は、ウォール・ストリートのベアー・スターンズ破綻し、JPモーガンに救済合併された翌日、当時最高値のトロイオンスあたり1000ドルを付けていた金価格を下落させました。
紛争と金価格の関係を言及する傾向は歴史的なものかもしれません。イランのアメリカ大使館人質事件は、1979年11月に始まりました。そして、ロシアは12月にアフガニスタンへ侵攻しました。これは、金価格が1980年1月に2007年後半までの最高値であるトロイオンスあたり850ドルへと急騰した頃と、時期を同じくしています。
「もし、市場の反応のみを考慮したならば、我々は世界第8次大戦中にいるのです。」という、1980年1月21日に価格がピークを迎えた際に一人のストックブローカーが発した言葉は有名です。
繰り返しますが、金価格に影響を与えるのは、金利の動きなのです。特に、インフレ考慮後の米国債の実質的な利回りです。もしくは、当時国債保有者は実質的に年間4?5%を失っていたという事実です。それは、1970年代後半には、インフレは14%を超え、株式へ投資している人々や貯蓄をしている人々の実質的リターンを消し去っていたのです。
それでは、2014年の現在に早送りをしてみましょう。ここにおいても、金利が影響を与えているのです。しかし、今日はインフレではなく、「特にユーロ圏に潜在的に存在しているとされている、デフレのリスクなのです。」と、IMFのチーフエコノミストのOlivier Blanchard氏が、ドイツのHandelsblattのインタビューで答えています。
デフレとは、価格が下落することを意味します。そして、それは信用バブルの後に起こるものです。消費者は消費を先延ばしし、ビジネスと税収入へ打撃を与えます。そして、この状況下では、将来価格が下落することが期待され、更には将来の賃金も下落すると予想され、消費を抑制します。これは、1990年以来の日本の状況であり、2009年以来のギリシャとアイルランドの状況です。
金融システムの崩壊への懸念以外に、このような「失われた数十年」への憂慮が、米国連邦準備制度理事会や他の中央銀行がゼロ金利を実行した理由でもあるのです。そして、5年前に量的緩和が始まり、市場に大量の資金が供給され始めたのです。そのため、デフレの懸念から、消費者物価が下げることへの対応として金融政策が実行され、著名ファンドマネージャーが、これによりインフレを引き起こされると賭けたことから金購入へと向かわせたのでした。
私達は長い道のりを経てここへ至っています。しかし、米連邦準備制度理事会が量的緩和を縮小したとしても、デフレへの懸念が残るために、ヘッジファンドや他の機関投資家が金を再度購入することを始めた動機であるのかもしれません。
ウクライナは、現段階では少なくとも、金価格が上昇した本来の要因ではないのです。米国債10年物の実質利回りは、金価格が1200ドルへと底打った大晦日のインフレ考慮後の1.5%から下げて、本日(3月13日)1.0%ほどとなっています。資産保持の投資対象金融商品として、金と競合する米国債が魅力のないものである以上、金利を産まない金であっても、その魅力は十分に増すこととなるのです。
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エィドリアン・アッシュは、ブリオンボールトのリサーチ主任として、市場分析ページ「Gold News」を編集しています。また、Forbeなどの主要金融分析サイトへ定期的に寄稿すると共に、BBCに市場専門家として定期的に出演しています。その市場分析は、英国のファイナンシャル・タイムズ、エコノミスト、米国のCNBC、Bloomberg、ドイツのDer Stern、FT Deutshland、イタリアのIl Sole 24 Ore、日本では日経新聞などの主要メディアでも頻繁に引用されています。
弊社現職に至る前には、一般投資家へ金融投資アドバイスを提供するロンドンでも有数な出版会社「Fleet Street Publication」の編集者を務め、2003年から2008年までは、英国の主要経済雑誌「The Daily Reckoning]のシティ・コレスポンダントを務めていました。