1兆ドルに及ぶ金価格の下げ
昨年4月、この週に金価格は2日間で15%下落し、4月15日月曜日には市場価値の10分の1を失い、金は1兆ドル相当の価値を失ったのでした。ここで、ブリオンボールトのリサーチ主任エィドリアン・アッシュが、一周年を迎える当時の背景と2014年の現状を解説しています。
昨年、この前週金曜日における、過去に掘り出された175,000トンの金の価値は8兆9千億ドル(907兆円)でした。しかし、価格急落後は、火曜日の市場価格では7兆7千億ドル(785兆円)となったのでした。この下げ幅は、ロンドンの全ての住宅価格を合算したものと同等の規模です。
もちろん、すでに掘り出された金の全てが市場で取引されているわけではありません。この半分は宝飾品に加工・製造されており、残り20%は中央銀行で金準備として保管されています。しかし、金融市場のトレーダーは、昨年4月のこの週に、派生商品とETF取引でパニックに陥ったのです。
下落の始まり
ヘッジファンドや他のファンドマネージャーは、金の12年間に渡る強気市場に飽々しつつあり、2013年年明けから金への興味を失いつつありました。そのため、2012年末の記録的なETFの残高は、10%近く減少していました。
また、金価格が下げることを予測し、賭ける人々も出ていました。そのため、米国金先物オプション市場で、「投機筋のショート(売り越し)」と呼ばれる建玉を、10年前にゴードン・ブラウン元英財務相が英国の金準備を売却することを予告した時以来の記録的な水準で増やしていたのでした。
下落幅を急速に広げる
4月12日早朝の大量の売却後、ロンドンPM Fix金価格は、トロイオンスあたり1535.50ドルと、過去18ヶ月で最も低い水準に近づきました。これは、多くのトレーダーや取引を行うコンピュータープログラムにとっては、テクニカル分析上重要な水準であったために、ニューヨークの先物市場では、売却注文が押し寄せたのでした。
そのために、金価格は一時間の間に3%近く下落し、2011年6月以来初めてトロイオンスあたり1500ドルに達したのでした。しかし、更なる下げは、この金曜日午後遅くの下げの機会を逃したアジアのトレーダーが動き出した月曜日に始まったのでした。
このパニックはこの取引時間中に更に広がり、この価格の下げを言い表す言葉を「Waterfall(滝のような下げ)」、「Snowball(雪だるま式に下げ幅を広げる下落)」、「Freefall(下げを止める力が働かない暴落)」とするか苦心したのでした。どちらにしても、彼らは下げ続ける価格で売却をし、2100トンを超える金の先物が取引されたのでした。
急落の原因
インターネットの専門家は、価格を下落させるための何らかの力が働いたと主張しています。多くのアナリストもまた同意しています。しかし、金曜日の1535ドルへの急落が政治的陰謀とは見られていません。
2013年春の金の急落は突然起きたように見えるかもしれませんが、実際には、米国債の格付けが引き下げられ、英国で暴動が起き、ユーロが崩壊の危機にあった2011年夏に金が史上最高値である1900ドルを超える価格を記録して以来、1年半の間に積み重ねられていたのでした。
2013年に入り、投資ファンドは金融危機とその特効薬である金にうんざりしていたのでした。スイスの銀行であり、ロンドンのブリオンバンクであるるクレディ・スイスは、その変化を嗅ぎとり、2月に「金の時代の終焉の始まり」と述べたのでした。そして、米連邦準備制度の政策担当者の数人によって新たな量的緩和を削減する可能性が話され、3月には「量的緩和縮小」が話題となるようになりました。
4月初旬に、投資銀行ゴールドマン・サックスのアナリストが、顧客へ派生商品を利用して価格が下げた時に収益を上げるために、金をショート(売り越し)することを進めたのでした。4月11日金曜日には、財政難に陥っていたキプロス緊急支援策の一環として、保有する「必要のない金準備」を売却すべきだという内容があるという情報が、欧州連合と国際通貨基金の資料からメディアへ漏れたのでした。
ここで提案されていた売却量は10トンほどと少ないものであり、キプロス首脳陣は即座にこの噂を否定しました。ユーロ圏の中央銀行は、2009年に売却を終えたフランスを除き、金融危機以来金準備を売却していません。しかし、キプロスの金準備売却の噂は、市場を驚かせました。そして、4月12日金曜日が、ゴールドマン・サックスのアドバイスに従い、金のショート(売り越し)をしていたヘッジファンドにとっては、素晴らしい日となったことが証明されたのでした。
現在の金市場
6月の2度めの急落後、金価格の下落から収益を得ることは困難となりました。2014年の新年から価格は横這いを続けました。金は、米連邦準備制度が量的緩和縮小を開始したにも拘らず、その後10%上げることとなりました。
また、この上げは米国株式市場が史上最高値を更新する中で起こりました。この間(そして現在も)、世界の主要中央銀行は、インフレを促すために引き続き低金利政策と量的緩和を続けています。主要株式市場の2013年のパフォーマンスの高さは、金が1998年以来初めて価格を下げる中、金の保険機能を改めて証明しました。
2009年上旬以来のウォール・ストリートの強気市場は、昨年のこの週の金の下げ幅をはるかに上回る、2日間で25%急落したS&P株価指数の1987年10月までの5年間としばしば比較されています。
金の2013年4月の急落は、欧米のETF市場や派生商品市場とは異なり、実際金購入を望む人々にとっては願ってもない機会でした。主要資産クラスの中では独自の特質を持つ金の現物は、世界の様々な人々によって異なる目的で購入されています。
欧米の投資家は、リスクを分散させるために経済成長と長期的には相関性の低い、希少価値のある現物資産である金を利用します。それは、金の工業用途は年間需要の15%に過ぎないためです。
宗教と昔ながらの慣習から、世界最大の消費国であったインドの宝飾品需要は、2012年から続くインド当局の輸入規制によって抑えられています。
中国は、その間にインドを越え世界最大消費国となりました。それは、世界第二の経済規模を持つ国の、経済発展によって豊かになった人々が、信用バブルを憂慮する中で、歴史的にも好まれていた金が再度魅力を増したためでした。
金価格が急落した昨年4月16日には、前週に15%減であった上海の金現物取引は、それまでの記録を50%上回る3倍の取引量となったのでした。
2013年の中国の記録的な需要の高さは、価格の下落を巻き戻すことはできませんでした。しかし、インドの底値広いの購入の波と共に、中国消費者の高い金の需要は、世界の貯蓄者の金融システムの保険としての機能を果たす金の更なる下落を押し止めたのでした。
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エィドリアン・アッシュは、ブリオンボールトのリサーチ主任として、市場分析ページ「Gold News」を編集しています。また、Forbeなどの主要金融分析サイトへ定期的に寄稿すると共に、BBCに市場専門家として定期的に出演しています。その市場分析は、英国のファイナンシャル・タイムズ、エコノミスト、米国のCNBC、Bloomberg、ドイツのDer Stern、FT Deutshland、イタリアのIl Sole 24 Ore、日本では日経新聞などの主要メディアでも頻繁に引用されています。
弊社現職に至る前には、一般投資家へ金融投資アドバイスを提供するロンドンでも有数な出版会社「Fleet Street Publication」の編集者を務め、2003年から2008年までは、英国の主要経済雑誌「The Daily Reckoning]のシティ・コレスポンダントを務めていました。