金価格を動かす要因とは
経済学者であり、前米国連邦準備制度理事会の議長であったベン・バーナンキ氏が、米議会で「金を本当に理解する人はいない」と述べた話は有名です。
ビクトリア時代の銀行家であり、地金界の大物であった、N.M.Rothchild氏もまた、同様に述べています。それは、「金の価値を本当に理解している人は、この世に2人しかいない。その一人は、フランス銀行の地下の貯蔵庫の事務員であり、もう一人はイングランド銀行の取締役の一人だ。しかし残念なことに、この2人は(その金の価値について)合意しない。」と、19世紀半ばに機知に富んで述べたことが伝えられています。
現代の多くのアナリストは、ロスチャイルドの冗談を気にもとめないでしょう。そして、金価格の動向を予想することを、生活の糧としています。しかし、彼らは今年困惑しています。それは、2013年の急落の後の新たな下げを予想していたものの、金は他のすべての取引可能な資産を上回る上昇を見せていることからです。
今年後半の金価格の先行きを考える中で、投資家はどのようなことを考慮すべきでしょうか。ここでは、一般的に金価格を動かすと考えられている7つの要因と、歴史的に見られた金価格への影響について解説してみましょう。
1.インフレーション
金価格は、平時としては記録的なインフレを経験した1970年台に18倍に上昇しました。確かに、多くの投資家は、当時のポール・ボルカー議長率いる米連邦準備制度理事会がかつてない80年代の金利の高さで戦っていたインフレがもたらす、「インフレ心理(Inflationary Phycology:将来のインフレ期待から通貨価値が下がることの懸念で買いだめなどを行うこと)」に動かされていました。しかし、その後の20年間はインフレが落ち着きもみせたものの、通貨の購買力は失われ続け、米国ドルの購買力は半分へ至ったのでした。その間、金の価格は半分以上下げ、実質上80%の価値を失うこととなりました。
それ以来、米国の公式に発表されているインフレ率が、過去50年間で最も低いスピードで上げる中、金は350%上げています。過去の45年間に、金価格と米国消費者物価指数は、統計的に2つの数値の動向の相関関係を表す、12ヶ月平均相関係数は、0となっています。
2.金利
金は金利を生み出さないために、金へ投資することによって、購入資金を銀行に預ける、もしくは債券を購入することによって得られる金利収入などの機会費用を失っています。しかし、高い金利は、金の魅力を失わせるものの、その価格との関係は必ずしも明らかなものではありません。実際、金価格と金利は、1969年以来の期間においては、全体の半分の期間においてのみ逆方向に動いています。それ以外の期間は、金と金利は共に上昇するか、共に下落しています。
3.株式市場
金利同様に、金は株式市場と逆方向に動く傾向は、通常は半分以下の期間のみであり、1969年からの12ヶ月単位で見ると、48%となっています。更に、過去45年間の金とニューヨーク市場のS&P500株式指数の12ヶ月平均の相関係数は、平均すると0となっています。それは、平均値が-0.002、中央値が0.02と、株式市場に投資する投資家にとっては、金価格と株価の相関関係が弱いことからも、ポートフォーリオの多様化を望むとであれば、適当な投資先なっています。
4.地政学リスク
今でも語り継がれている、金価格が1980年にトロイオンスあたり$850ドルとピークを迎えた背景は、ソビエト連邦がアフガニスタンへ侵攻し、同時期にイランの首都テヘランの米国大使館人質事件が発生したことからでした。2011年に1920ドルのピークへ金価格を押し上げた背景は、中東の民主化運動「アラブの春」が内戦を引き起こしたこと、そして、ユーロ圏のギリシャ政府への緊縮財政の要求に対する抗議のゼネストがギリシャ国内を混乱させ、英国では近世では最悪の暴動が発生しました。この間に、投機家がニュースが発表される度に金の先物・オプション市場で価格の動きに賭ける取引をすることで、価格はしばしば動いたものの、このような動きは通常短期的である傾向があります。
1982年3月に始まったフォークランド紛争時には、最初の2週間で金は12%上昇しました。しかし、5月の末にはこの上げ幅は全て失われ、英国が再びスタンレー港を奪回した6月には、過去3年で最も低い価格まで下げていました。
1990年8月2日にイラクがクウェートに侵攻した際に、金は再び急騰し、ロンドンではこの日にトロイオンスあたり10ドル上げ380ドルとなりました。しかし、この湾岸戦争時の平均価格が証明するように、当初412ドルまで急騰したものの、7ヶ月後に米国が率いる多国籍軍によって勝利を収めた際には、365ドルまで下落していました。
これと比較するために、過去30年間で1ヶ月で最も大きな上げ幅を見せた1990年10月と2006年5月を見てみると、その上げ幅はそれぞれ25%と23%です。ちなみに、1990年10月にはパキスタンの無血クーデターと、300人近い死者が出たロシアの高層アパート連続爆破事件、2006年4月にはイランのウラン濃縮プログラム発表などと地政学リスクの高いイベントがありましたが、この日に金価格は動いていません。
5.米国ドル
他の天然資源のように、専門市場の金は米国ドル建てで価格が付けられ取引されています。そのため、分かりきったことですが、ドル安は金価格を上昇させ、ドル高は金価格を下落させます。しかし、このように動くのは一般的には60%ほどとなっています。また、金が米国ドル建て価格が付けられ取引されていることが、他の通貨建て価格のより大きな動きを見失わせている場合があることも覚えておく必要があるでしょう。それは、例えばポンド建て金価格は、1968年以来ドル建て金価格よりも40%以上上昇しています。過去10年間では、金価格はポンド建てで273%(費用も含む)上げてます。それに対し、ドル建ては255%となっています。そして、このようなポンド建ての強い価格の上げは、ドル高が進んでいる際です。ポンド建て金は、2004年以来27ヶ月5%以上その価格を上げています。そして、この間の21ヶ月は、ドルは対ポンド上げているのです。
6.原油価格
金は地政学リスクが高まる際に安全資産として購入される傾向があります。そして、地政学リスクが高まる紛争が原油絡みのものであることが多いことから、この2つのコモディティは共に動くと考えられています。確かに、株式や金利と比べると金と原油は同じ方向へ動くことが多くあります。これは、年間ベースでみると、1986年以来60%を多少超えるほどです。金の30年来の低迷から回復を始めた今世紀初めは、原油と他の天然資源の長期の強気市場と重なっています。しかし、このコモディティの強気市場の「スーパーサイクル(Supercycle)」が、この市場にファンドマネージャーなどの新たな資金を集めたものの、金融危機の発生とともに、原油は2008年の後半に80%近く大きく下げることとなりました。しかし、この間金価格は一時的に下落したものの、強気市場を継続し、2014年7月までの10年間に、原油の140%に対して、235%の上昇となっています。
7.アジアの需要
金価格は2013年に、中国人民元を含む全ての主要通貨建てで30%下落しました。そして、2013年に中国の一般庶民は、世界の最大の金の消費者となりました。2014年前半に、金価格は前年の下げ幅の3分の1を取り戻しています。この間、中国の金の需要は、前年比20%下げています。アジアの需要は、明らかに価格によって動かされます。そのため、言い換えれば、この需要は価格を動かすものではなく、価格によって動かされるものということです。実際、中国に世界最大の消費国の座を譲ったインドは、2013年に過去3年間で最低水準まで金価格が急落した際に、記録的な金の量を輸入していました。世界の金価格は、インド政府が昨年夏に金輸入規制を強化した際に底値を打ち、インドの輸入が75%下げたにも拘らず、それ以降横這い、もしくは上昇しています。これは、金価格は消費者の需要によって動かされるのではないためです。その代わりに、金価格に影響を与える人々は、他の資産から金市場に入ってくる投資家であるのです。価格の上昇を続けるためには、1970年代と2000年代の強気市場で見られたように、機関投資家の資金が必要なのです。
そして、その資金の流れを強めたり弱めるのは、先の全ての要因が組み合わされた時です。しかし、その根底には、長期に渡る金価格の上昇、もしくは下落は、それが政治的なもの、通貨価値、もしくは天然資源資産の産出に係る問題などと、広い意味での市場における何らかの懸念を反映したものでもあります。
人々は金を金融システムの保険と見る傾向があります。通常保険が必要な時には、その費用は高くなっているものです。金価格は、2001年の30年来の低水準の価格から2008年の後半までに既に3倍以上となっていました。また、金貨の需要は、リーマンショックの前には急増していました。そして、投資銀行が破綻した際には、既に在庫は尽きていたのでした。経済の破綻は、市場と経済学者を驚愕させました。しかし、このような状況に備えて金を長期保有目的で購入していた人々が受けたショックは、より少ないものであったのです。
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エィドリアン・アッシュは、ブリオンボールトのリサーチ主任として、市場分析ページ「Gold News」を編集しています。また、Forbeなどの主要金融分析サイトへ定期的に寄稿すると共に、BBCに市場専門家として定期的に出演しています。その市場分析は、英国のファイナンシャル・タイムズ、エコノミスト、米国のCNBC、Bloomberg、ドイツのDer Stern、FT Deutshland、イタリアのIl Sole 24 Ore、日本では日経新聞などの主要メディアでも頻繁に引用されています。
弊社現職に至る前には、一般投資家へ金融投資アドバイスを提供するロンドンでも有数な出版会社「Fleet Street Publication」の編集者を務め、2003年から2008年までは、英国の主要経済雑誌「The Daily Reckoning]のシティ・コレスポンダントを務めていました。