プラチナウィークとプラチナの需給について
ロンドンでは、毎年5月にプラチナウィークが開催される。2016年は今週16日からの一週間で、今回出席したイベントについてレポートする。
まず、16日に行われた英国貴金属リサーチ会社のMetals Focusのプラチナとパラジウムレポート「Platinum & Palladium Focus」のローンチ及びネットワークパーティに出席した。
Metals Focusは、現在トムソン・ロイターに吸収された、英国貴金属リサーチ会社GFMSで働いていた人々が独立して始めた会社で、現在はワールド・ゴールド・カウンシルが四半期ごとにまとめている「Gold Demands」のリサーチにGFMSに代わり関わっている。
今回プラチナとパラジウムのレポートをプラチナウィークにあわせて始めて発表し、この会がお披露目のパーティーということだった。
ここで発表された「Platinum & Palladium Focus」の概要は下記の通り。
- 2016年の始まりの2ヶ月は、プラチナとパラジウムの価格は上昇することとなった。これらの価格は共に、1月の低い水準の価格からそれぞれ3分の1以上の上げ幅となった。これは、価格の半分を失った、18ヶ月間の弱気市場の終わりと考える。
- 昨年の悪いパフォーマンスの中でも、それぞれのファンダメンタルズは、昨年の大半は必ずしも悪いものではなかった。プラチナの供給は需要を下回り、パラジウムにおいてもかなりの供給不足が見られた。しかし、ETFからの資金の流出などの地上に存在する在庫が、市場の需給のギャップを十分に満たすものでもあった。
- 重要なのは、昨年は資産運用業者などのこれらの貴金属への興味が薄れたことであった。プラチナムに関しては、このようなことからも、そのファンダメンタルズの見通しに懸念が残るものとなっている。年間を通してみると、期待されていた南アフリカの産出量の削減は起こらなかった。また、ユーロ圏の経済的な問題やフォルクスワーゲンの排ガス不正問題は、ディーゼル車の販売を妨げるものとなった。そして、金市場の見通しの弱さもまた、更なるプレッシャーとなった。
- パラジウムの弱気市場は説明することが更に困難となった。過去数年は供給不足で、今後もその供給不足が続くと予想されている。しかし、これらは新興国における車の販売量が継続していくことが前提となっているが、中国の景気の停滞は投資家にショックを与えた。また、株式市場の低迷と貴金属全体にあった弱気傾向もまた助けにならなかった。
- 将来的には、プラチナ及びパラジウムの価格は、慎重にではあるが楽観的と見ている。金の上昇と両貴金属の供給不足は、下げのリスクを軽減させた。しかし、投資家のこれらの貴金属への興味は低いために、価格が今後の7ヶ月間で上げたとしても、その上げ幅は制限されるだろう。
2015年の需給レポートで興味深かった点は、プラチナの現物投資部門が昨年最も成長したということ。これは、458%増と顕著なもので、これにより、2010年から2014年まで全体の需要の2%であったものが、2015年には9%と急伸している。そして、これを牽引したのが日本の2015年後半の需要であったとのこと。
本日18日は、東京商品取引所(TOCOM)のBreakfast Receptionに出席してきた。このBreakfast Receptionは、新たに昨年始まったものだが、濵田?道氏が代表執行役社長に就任した機会に濱田氏のイニシアチブによって始められたと聞いている。
ここで、まず濱田CEOが挨拶をされ、池水雄一ICBCスタンダードバンク東京支店長が昨今のプラチナ市場の解説を行なった。ここで、プラチナ市場の供給不足状態、そして歴史的にも最大となっている、対金価格とプラチナ価格の幅の広さに注目し、プラチナ価格が今後上昇すると大胆にも予想していた。
なお、その後TOCOMの国際室長の関良一氏がTOCOMの商品ごとの取引状況や今後の見通しなどの説明を行なった。
そこで、興味深かったのはTOCOMは昨年5月に、東京ゴールドスポット100(ゴールド100)をローンチし、1年間で最も伸びた商品であるとのこと。この商品は、ポジションが自動的に翌営業日に持ち越される決済期限の無い取引であるところが、これまでの商品とは異なる点。
そして、将来的にプラチナにおいても同様の商品をローンチすることを計画中とのこと。更に長期的には、それぞれの先物コントラクトを現物で引き出す可能性も検討中とのこと。
次々と新たな試みを打ち出す今後のTOCOMの動きに注目が行くこととなるだろう。
世界のプラチナ業界が一堂にここロンドンで会するプラチナウィークの市場関係者雰囲気は、18ヶ月という弱気市場を味わったことからも、必ずしも楽観的ではなかったように見受けた。しかし、需要の大部分を工業用需要とする市場であり、排ガス浄化装置のために必要とする自動車メーカーなどにとってみると、まずは供給を安定することが第一目標であるとし、価格の上げ下げは二の次という興味深いコメントなども聞くことができた。
この辺りが、需要の多くが投資部門である金とは異なる点なのであろう。
本日行われたTOCOM Breakfast Receptionの会場でプラチナ市場を解説する、池水雄一ICBCスタンダードバンク東京支店長。
ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者として、セールス、マーケティング及び顧客サポート全般を行うと共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを行う。