2019年金価格:今年を振り返って
2019年の予想は2018年の金価格の強さを振り返ることから始まります。
今年の金の強さは金投資家の動きが一つの要因となっていると言えるでしょう。ここで、ブリオンボールトのリサーチダィレクターのエィドリアン・アッシュが解説しています。
2018年は金に対するネガティブな要因が重なっていました。そして、新たな金投資家が減少する中で、既存の投資家は価格の高まりの中でも金の売却することはありませんでした。
この1年をまとめると、金相場がこれほどつまらないものであったことはかつて少なかったと言い切ることができるでしょう。
ユーロ建てと英国ポンド建て金相場は、昨年12月の水準へと戻っています。そして、その価格幅は新年から10%にすぎません。
米国ドル建て金価格の動きは、この二つの通貨に比べると大きいものでしたが、大したものではありませんでした。そして、この価格は本日昨年末から5%低い水準を推移しています。
金価格は、先のチャートからも見れるように2018年に堅固な動きをしています。
それでは、金を囲む環境がいかに厳しいものであったかを見てみましょう。
まず今年の現物の需要は減少していたことが一つの理由です。
宝飾品、中央銀行、工業用、投資全てを含む需要は、2018年の9月までに、世界金融危機後に景気低迷の最中であった2009年以来の低い水準を記録していました。
そして、機関投資家が金への興味を失っていました。そのために、金を裏付けとする上場投資信託(ETF)の残高に動きがみられず、最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は10%減少していました。
それに加え、個人投資家もまた金への興味を失っており、金貨と金地金の販売量が数年ぶりの低さへと下っていました。
それは、グーグルの「金を購入」の検索数が、世界金融危機の直前の2007年の半ばまで下落を続けていたことからも、見ることができます。
それに対し、金の産出量は増加を続けていたのです。そして、2018年に世界の金産出量は史上最高値を付ける気配です。
世界最大の金産出国の中国は、環境関連の規制厳格化によって産出量は下げものの、現地価格の上昇は、金産出国として第2位のオーストラリア、第3位のロシア、第4位のカナダの産出量を増加させたのでした。
金現物から離れたとしても、ヘッジファンドや他の投機家は、これまでにない水準で金価格の下げに掛けていました。
米商品先物取引委員会(CFTC)が発表したデータによると、コメックスの金先物・オプションの資金運用業者ポジションは、7月の初めの週以来先週までネットショートを21週続けていたのです。
コメックスの契約には金現物は必要ありません。そして、ヘッジファンドは金価格の将来を予想が的中するわけでもなく、彼らはその時点でのトレンドに応じて取引を行います。しかし、この動きは価格に影響を与えるのです。それは、12か月後の金価格が下げているとする契約は、現時点の金価格を押し上げるためです。
米国ドルの、他の通貨に対して過去6年間で5年間上げ続けている強さが金にとってはかなりの逆風でした。
そして、米国の中央銀行である連邦準備制度が金融引き締めで、金利を引き上げていることも金にとってはネガティブ要因となっていました。
さらに、欧米株式市場が上昇を続け、今年史上最高値、もしくはそれに近い水準を付けていました。
これらをまとめると2018年に金は下記のような厳しい環境の中にいたことになります。
- 現物需要の減少
- 投機家の弱気な金センチメント
- ドル高
- 金利上昇
- 株価上昇
このような中で、なぜ金価格が堅固に推移したのでしょうか。
個人的には、政治リスクが要因であったと考えます。
金融市場における金の環境は良くないものであっても、2018年は米中の貿易戦争の始まりがあり、ロシアと欧米諸国の関係悪化、原油産出国の混迷と価格の低迷、そして、欧米の民主主義が世界金融危機後10年を経て、揺らいでいることなどが、金をサポートしていたと考えます。
これらのリスクや問題への懸念からも、金を保有している投資家は金を売却することができなかったのです。金融システムの保険としての金を、政治リスクから金融システムが揺らぐ可能性がある中で、手放すことはあり得ないのでしょう。
もし、先の要因が2018年の金価格を堅固なものとしていたのなら、金や他の貴金属価格を2019年にさらに押し上げるのでしょうか。
これは、パートIIで専門家の意見を取り上げて見ていくことにしましょう。
エィドリアン・アッシュは、ブリオンボールトのリサーチ主任として、市場分析ページ「Gold News」を編集しています。また、Forbeなどの主要金融分析サイトへ定期的に寄稿すると共に、BBCに市場専門家として定期的に出演しています。その市場分析は、英国のファイナンシャル・タイムズ、エコノミスト、米国のCNBC、Bloomberg、ドイツのDer Stern、FT Deutshland、イタリアのIl Sole 24 Ore、日本では日経新聞などの主要メディアでも頻繁に引用されています。
弊社現職に至る前には、一般投資家へ金融投資アドバイスを提供するロンドンでも有数な出版会社「Fleet Street Publication」の編集者を務め、2003年から2008年までは、英国の主要経済雑誌「The Daily Reckoning]のシティ・コレスポンダントを務めていました。