一般投資家の金購入は株価の下げの中でも進まず
新たな新規顧客数は、リーマンショック以前の低さでした。
一般投資家はどれだけ警告が必要なのでしょうか。ここで、ブリオンボールトのエィドリアン・アッシュが問いかけています。
世界の株価の指標であるMSCIワールドインデックスは先月6.3%下げていました。そして、長期金利は2011年の夏の欧州債務危機とイギリス暴動で金価格がトロイオンスあたり1920ドルへと上昇していた頃以来の速さで下げていました。
しかし、一般投資家の金への投資傾向は、今年一番の弱さとなっていました。
そして、新たな金投資への興味は、株価の急落にもかかわらず、リーマンショック以前の水準へと下げていたのです。
これは、世界175か国の75,000人の顧客が20億ドル(約2210億円)相当の地金を保管している、現物地金のオンライン市場としては世界最大のブリオンボールトのデータにおいて明らかになっています。
そして、弊社で月間で金購入が金売却を上回っていた顧客数は、5月に前月比14.2%減少し、2018年4月以来の低さとなっていました。また、売却が購入を上回っていた顧客数は35.9%増え、今年2月以来の高さとなっていました。
そのために、一般投資家が実際に行った金地金現物売買のデータから算出する金投資家インデックスは、昨年12月以来の低い水準の52.0となっていました。また、この数値は3月と4月が6か月ぶりの高い水準の54.5であったことから、前月比4.6%減と2018年1月以来の一月あたりの大きな下げでもありました。
この数値が50であった場合、その月の購入量が売却量を上回っていた顧客数と売却量が購入量を上回っていた顧客数が完璧に一致したことを意味します。金投資家インデックスは、2011年9月に月間平均金価格がトロイオンスあたり1920ドルとなった際に、71.7と史上最高値を記録していました。
さらに興味深かったのは、ブリオンボールトにおける新規顧客数が先月11年ぶりの低さへ下げたことでした。
この数値は、過去12か月の平均値を26.7%下回り、2008年7月以来の低い数値となっていました。
英国におけるEU離脱の混乱は一向に解決の糸口が見えない中で、英国の新規顧客数は、英国の緊急危機の始まりとも言われている、2007年9月のノーザンロックの取り付け騒ぎ以来の低い数値で、過去12か月平均から48.8%下げていました。
また、米国の新規顧客においては過去12か月の平均値から14.3%の下げで、フランスは22.9%下げ、イタリアは53.2%の下げである中、ドイツは43.6%増となっていました。
グーグル検索の「Buy Gold (金を購入)」の世界の検索数は、先を裏付けるように、2007年半ばの水準まで下げちました。しかし、ドイツ語の「Gold Kaufen(金を購入)」は、低い検索数を記録した5年前から33%増加していました。
このように金への興味が高まらない中、金価格はほぼ動きが無く、月間平均価格はドル建てで前月比0.2%の下げで、トロイオンスあたり1284ドルとなっていました。
この間銀価格は、5月に3か月連続で下げ、月間平均は昨年11月以来の低さのトロイオンスあたり14.63ドルとなっていました。
そのために、ブリオンボールトにおいてバーゲンハンター的購入が進み、月間で銀を購入した量が売却した量を上回っていた顧客数は前月比15.3%増加し、売却が購入を上回っていた顧客数の8.1%増を上回っていました。
そこで、銀投資家インデックスは4月の52.1から5月に52.6へと上昇していました。
また重量においても、ブリオンボールトで保管されている銀総量は2.1トン増加し、新たな記録である759トンとなっていました。
それに対し金の総量は、ブリオンボールトの顧客はネットで売却を進めていたことから、63キロ減少し38.8トンとなっていました。
5月の金売却は、売却者の半数以上が、ドル建て価格では5月の月間平均価格からトロイオンスあたり約45ドル安かった過去5年以来に金を購入していたことからも、利益確定目的がけん引していました。
また、米国造幣局でも同様な現象が見られ、5月の金貨の販売量は前月から60%下げ、ファンドマネージャーもまた、5月に金に裏付けされた上場投資信託(ETF)から資金を引き出していました。
ブリオンボールトがまとめたデータによると、北米においてその残高規模でトップ3の金ETF(SPDRゴールドトラスト、iシェアーズ・ゴールド及びスプロット・フィジカル・ゴールド・トラスト)は、その残高を5月に1.5%減少させていました。
米国で上場している年間マネージメント費用が0.175%(ブリオンボールトにおいては保険料を含んで0.12%)と比較的安い金のETF3種類は、1.8トンと少ないながら増加させていました。
欧州のトップ3金ETFの残高は、重量では5トンと1.0%増加していました。
金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は6月1日に16.4トンと3年ぶりの大きな一日の増加量を記録していました。
しかし、『安全資産需要』と言われている金価格の上昇は、現物金地金への需要によるものではなく、派生商品市場等での投機的な動きによるものでした。そして、5月の金鉱株や金ETFへの資金流入も同様な理由と見られます。このようなことからも、金融システムへの懸念は、現物金地金の購入を一般投資家が望むには十分ではないということなのでしょう。
つまり2018年の株価の急落や世界金融危機時のような株価の更なる下げがあってこそ、このような需要を生み出すということなのでしょう。
しかし現在においては、株式市場の低迷や景気後退の兆しがあるにもかかわらず、一般投資家の金投資への興味は欠落しているようです。