ゴールドコラム & 特集

よみがえる古代コイン・・・その2

本年の年明け3日に、TBSで『財宝伝説は本当だった』という特番が放送されていました。ご覧になられた方も多かったのではないでしょうか。番組内ではカリブ海の沈没船から引き揚げられた金貨・銀貨をはじめ、さまざまなコインの発掘、出土のニュースが取り上げられていました

ちょうど前回似たような話題を取り上げていたので、追加補足を少し。

 トレジャーハンティングの結果なり偶然の産物なり、もし本当に地中や海中からざくざくと古いコインを見つけたら心躍りますよね。それが貴重な金貨であったら最高です。

では実際のところ、大量の古いコインや財宝を見つけた場合、発見した人はどのくらい利益を得られるのでしょうか?

 かつて日本では徳川埋蔵金伝説などが取り上げられ、一攫千金と夢を求めて莫大な資金と時間を投入した人も存在しました。しかし日本では埋蔵金をもし掘り当てた場合、それがかつての将軍家が埋めたものであっても、民法第241条「埋蔵物の発見」の規定、つまり「遺失物法」の適用対象と見做されるのです。

つまり、発見者は自分の所有地で見つけたものであったとしても地域の警察署へ届け出る義務を負うことになります。貴重な大判小判だといって、もし勝手に売り出したりすれば「遺失物等横領罪」に問われます。

ちなみに警察署に届けた場合、財布など他の落し物と同じく半年の間に持ち主が現われなければ届け出た人のものになります。もし発見した人と発見場所の土地所有者が異なる場合には、両者間で折半となります。

しかし埋蔵金を埋めた人の子孫が現われて相続権を主張し、もし証明が行われた場合には埋蔵金はその子孫に引き渡されます。ただし、財布を拾った場合と同じく、発見者は持ち主から最大20%の報労金を受け取ることが出来ます。

ただ実際のところ、とんでもない価値がある埋蔵金や金銀財宝というものは、現在の社会では貴重な「歴史文化遺産」と見做されるわけで、一般個人が簡単に自分のものに出来るはずはありません。

ここでまた法律が絡んできますが、「文化財保護法」によって国や自治体のものになる可能性が高いのです。もし正統な相続人、つまり財宝の「所有者」が見つかればその人のものになりますが、教育委員会などの提言によって「埋蔵文化財」と指定された場合には売買することが難しくなります。

また、正統な所有者(つまり子孫)が現われなかった場合、財宝は地方自治体もしくは国の管轄下(つまり博物館や研究所、国庫へ入る)に置かれ、発見者と土地の所有者には発見に対する「褒賞金」が支払われます。

もし、貴重な文化財と認められて、尚且つ発見者に所有権が認められたとしても、「指定文化財」になっているため自由に動かすことはできず、大切に管理しなければなりません。

古代ローマやケルトのコインがよく出土するイギリスでは、発見したコインや財宝が300年以上前のものであった場合はすべて国の所有物となり、発見物に見合うだけの金額が発見者に支払われるとされているようです。

でも公正な第三者機関の鑑定や公のオークションが行われないと、国が不当に安い値段で財宝を買い叩くようなことも当然ありえると思うのですが、どうなのでしょうか?


地中から発見されたローマ金貨


(当時のアウレウス金貨は大変高価値であったため、資産として退蔵されていました。遺跡から発掘される場合は甕に入れられ、建物の壁の中に塗りこまれていることが多いようです)

 さて、年始の特番でやっていたような沈没船からの引き揚げ品ですが、こちらは海でのことなので、絡む法律も異なるようです。海は土地と異なり個人所有が出来ないので、基本的に「公」の場です。それはつまり、地没船も財宝も資源も基本的に「国家」に帰属しているということになります。

番組内では企業や個人が沈没船探査と引き揚げ作業を行っていましたが、当然これらの行為は国に事前の許可を得ています。2001年に「水中文化遺産保護条約」が国連で採択され、以降世界各国で海での宝探しに対する管理が厳しくなりました。本来は国家に帰属するものを個人が勝手に拾って売買しているのですから、当然といえば当然です。またトレジャーハンターは当然のことながら「財宝」が目当てなので、お目当てを探り当てるために沈没船を破壊してしまうこともあったと思われます。そうした行為を防ぐためにも、規制は厳しくなっているのです。

日本では海から宝物を見つけた場合は「水難救護法」によって市町村に届け出る必要があります。警察ではなく地方自治体という点でも、陸上での発見と異なります。また落し物としての保留期間ですが、例えば同じコインであっても海底の砂の上に散らばっているものを拾った場合は半年、もし沈没船の中にあるものを拾った場合は1年間と設定されているようです。

そしてもし所有者が名乗り出て財宝がその人の手に渡ったとしても、発見者には財宝の1/3の金額が支払われるということです。

陸上と海中では適用される法律が異なるため、それによって発見者が受け取れる金額も大きく異なってくるようです。

ただし、陸だろうと海だろうと関係なく関わってくるのは「税金」です。財宝を見つけて報奨金をもらおうが、丸々全部自分のものにできようが、すべて「所得税」の対象となります。この場合は「一時所得」とみなされるので、それに応じた割合が税として徴収されます。

こうやってみると、現在の世界ではトレジャーハンティングはなかなか儲からない稼業だと思えてきます。発見した財宝が莫大でも、それまでにかかった機材費用や人件費などの必要経費、行政への申請や対応、司法的な権利請求やらそして税金と、本当に苦労が絶えないでしょう。

そもそも「莫大な財宝」が見つかれば良い方ですが、これまでの年月の間に様々な発見が行われている以上、眠っている財宝や遺跡は限られているのではないでしょうか。


沈没船から引き揚げられたコインや財宝


ここまで言ってしまうとなんだか夢の無い話ですが、実際にトレジャーハンティングに情熱を注いでいる人たちは、金銀財宝やお金だけを目的にしているのではないと思います。チームで協力して宝を捜し求める喜び、宝物を発見したときの最初の興奮、老後の時間つぶしなど、目的や動機は様々でしょう。只単純に「世の中をビックリさせてやりたい」「ニュースに取り上げられて、歴史に名を遺したい」という名声を求める欲求もあるのかもしれません。

子供のときにみた考古学者への夢に、少しでも近づきたいという欲望もあるでしょう。たとえ専門的な勉強を大学でせず、考古学会に席を持っていなくとも、独自の力で遺跡や財宝を発見すれば歴史に名を刻むことができます。かつてトロイ遺跡を発掘し名を残したシュリーマンも考古学者ではなく、夢に人生を賭けた一個人でした。シュリーマンは名声を求める欲求が人一倍強く、また発掘した貴重な財宝はヨーロッパへ持ち出して博物館などへ売りさばこうとしていたと云われていますから、彼もれっきとした「トレジャーハンター」といえるでしょう。

しかし、遺跡や文化財に対する規制や認識が甘かった19世紀と異なり、現在では世界中で遺跡や文化財の保護、すなわち歴史の国有化が進んでいます。そういった時代の流れの中で一攫千金を夢見るトレジャーハンターたちは、少しずつ締め出されているのかもしれません。

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プロフィール

藤野 拓司

Fujino Takuji

ティアラ・インターナショナル株式会社 ディレクター

福岡県出身。早稲田大学卒業。古代ギリシャ・ローマコイン コレクター。コインジュエリー メーカー&卸売業、30年の実績。国内・海外コイン商との直接取引、25年?、国内・海外コインオークション、参加25年?(主としてロンドン・ニューヨーク)

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