ゴールドを巡るインドの現状
(インドルピー建てゴールド)
今年は11月3日から7日がインドのヒンドゥー教の新年の祝いに当たるDiwali(ディワリ)にあたり、この直前にゴールドの現地でのプレミアムは一時130ドルに達しました。そしてディワリが終わったあとは40ドルから50ドルものプレミアムに一時下がりましたが、こところの価格下落で再び100ドルを超えるプレミアムがついています。これはもちろん異常な状態です。ディワリは「光の祭り」とも呼ばれ、この期間にゴールドを買うと縁起がよく、幸運と繁栄をもたらすといわれており、毎年この時期にはゴールドの需要が大きく伸びる(いわゆる季節的需要と呼ばれるものの代表ですね)のですが、ここまでのプレミアムが付いたことは過去に例がありません。今年のインドは異例づくめです。
この強烈なプレミアムはそれだけ強い買いがこの時期にあったことだけが理由ではありません。このプレミアムの最大の理由はインド政府によるゴールド輸入に対する様々規制にあります。なかでも7月に発表された新たな規制はゴールドの輸入を強く抑える役割を果たしました。それは輸入のゴールド100%のうち、20%はそのまま保税倉庫に保存し、なんらかの付加価値をつけて再輸出しなければ次の輸入が許されないというものです。そもそもインドはゴールドの製品の輸出はこれまでほとんど経験がなく、この20%に付加価値とを加えて宝飾品として彼らが海外にそんなに簡単に売れるわけがありません。またゴールドの輸入税もそもそもがほぼゼロだったものが、過去2年間に10%まで負荷されるようになり、宝飾品に関しては15%の関税がかかるのが現状です。
この政策はインドの経常赤字(Current Account Deficit : CAD、インドの場合は輸入過多)に対する方策で、2012年度の経常赤字は882億ドルとこれまでの最大の赤字となり、GDP比4.8%に達し、インド政府はこれを700億ドルまで減少させたいと考えています。インドの輸入品の中で大きな割合を占めるのは原油とゴールドなのです。原油はエネルギーとして必要不可欠なので、ゴールドがその締め付けの対象となったというわけです。10月のゴールド輸入量は23.5トンでした。9月は11.16トン、8月は3.38トン、そして規制が始まる前の7月は47.75トン。この規制のためにオフィシャルなゴールド輸入量は大幅に減少しています。
(インドのゴールド輸入量とルピー建てゴールド価格の推移)
今年のインドはゴールドマーケットにおいては波乱の中にあったといえるでしょう。インドルピー下落のためにルピー建てのゴールドは史上最高値を更新し、買い意欲が減退したあとにこのような規制が導入されそれがインドの需要を大きく押さえ込んでいたのは確かです。しかしインド人にとってゴールドはファミリーという人間がいるくらいです。ゴールドは彼らにとって欠かせないものなのです。そのため輸入を規制するとまず国内のプレミアムが急騰し、その結果足りない分は現在はネパールやバングラデシュそしてドバイといったインド周辺地域からの密輸によってまかなわれるということになっています。
これは長い目でみると明らかに社会にとってはマイナスです。ゴールド輸入に対する規制はおそらく今後あまり長い間続けるのは不可能でしょう。どんなに取り締まっても必要なものは入ってきます。それがゴールドのように持ち運びやすく、価値が非常に高い、まさにこれ以上、密輸に向いた商品がないというくらいのものが対象なのですから。明らかにその影響で10トーラ・バーが復活してきています。1 トーラは約12グラム。10トーラで約120グラムのインド独自のゴールドバーです。おそらく小さくて隠しやすいという理由から復活してきているのでしょう。またゴールドが正規で輸入できない分、シルバーの輸入が増えているといいます。
やはり文化としてゴールドを必要としている以上、政府のゴールド輸入に対する規制は長い目でみればあまり意味のある政策だとは思えません。国内でのプレミアムが100ドルを超えるような異常事態になっていることがそれを端的に物語っています。密輸をするincentiveは非常に高いものです。持ってくるだけで1オンスあたり100ドル、1kgバーを持ってくると3200ドルも儲かるわけですから。これではわざわざ政府がその政策により密輸を奨励しているような結果になってしまいます。おそらく割合早い時期にこの政策は解除されると思います。
(インドのゴールド需要四半期ごとの動き(WGC))
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