ゴールドコラム & 特集

ゴールド生産コスト

今回はゴールドの生産コストを考えてみましょう。毎年GFMSが発表するGold Surveyを参考にしています。ゴールドはプラチナとは違い世界中で生産されてその鉱山の形態や採掘方法も千差万別です。ですから一言で生産コストを言うのは非常に困難であるうえに、大変ミスリーディングなものになってしまう可能性があります。それをあえてGFMSはそのレポートで発表しています。今回はその生産コストとその考え方をみてみます。

実は2014年から Gold Survey 2013年までのコスト計算と大きく違ったところがあります。2013年までは、主にゴールド鉱山のコストという形で計算していましたが、2014年からは大規模な副産物としての生産分(その鉱山の収入の65%以上がゴールドから来るもの)も生産コストに織り込むようになりました。そのため2013年までの数字とくらべて大幅に生産コストが上がっています。

生産コストにはいろいろな段階があります。GFMSは次の三つの段階のコストを積み上げています。

1.Total Cash Cost :トータルキャッシュコスト

採掘現場でのキャッシュコスト(採掘、鉱石処理、現場の一般管理費)、精錬費、鉱区のロイヤリティ、生産にかかる税金、副産物による利益などを含む数字。

2.Total Production Cost :トータル生産コスト

トータルキャッシュコストに減価償却費、債務償還コスト、返還準備金を足したもの。

3.All-in Cost : オールインコス

これはThomson Reuters GFMSの作ったコストパラメータであり、ゴールド鉱山生産のすべての微細なコストにいたるまでをカバーしたもの。トータル生産コストに現在の資本支出、間接経費、そして人件費を足したもの。

このベースでGFMSの計算で出てきたゴールドの生産コストは以下のとおり。



・世界のトータルキャッシュコストは2012年から1ドルだけ増加し、767ドル。鉱山会社がコストカットの努力をしたから。

・キャッシュコストを押し上げた最大の要因は労働者の賃金上昇であるが、これはロイヤリティーの支払いが減少したことと現地通貨が安くなったことによって相殺以上の効果があった。

・トータルキャッシュの平均利幅は29% の下落となった。価格が昨年比15%下がったことが大きい。

・トータル生産コストは2%だけ増加して989ドル。

・オールインコストは27%伸びて1620ドルとなった。

・オールインコストの急増は、2013年は補修工事などが急増したこと、そして鉱山会社がその埋蔵量を低くなったゴールド価格で計算しなおし、鉱山生産計画を練り直し、その前年までに合併で手に入れた鉱山なども含めての評価損を計上したことによります。2012年はこれに当たる部分が91ドルでしたが、2013年はこれが414ドルにも急上昇しました。そのためにオールインコストが急増することになったのです。これは鉱山会社が継続していくためのコストとしてGFMSは計算しています。1300ドル前後の現在の相場では、多くの鉱山会社が生きていくことが難しいということになりますね。鉱山会社にとっては厳しいマーケットになっています。



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岡藤商事株式会社

プロフィール

池水 雄一

Yuichi Ikemizu

スタンダードバンク東京支店長

1990年クレディ・スイス銀行、1992年三井物産貴金属リーダー、2009年より世界一の金取引量を誇るスタンダードバンクの東京支店長に就任し、現在に至る。一貫して貴金属ディーリングに従事し、世界の貴金属ディーラーでBruce(池水氏のディーラー名)を知らない人はいないと言われている。著書に「THE GOLD ゴールドのすべて」など。

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