中国のゴールドマーケットの現状 ? WGCのレポートから
今年7月WGC(World Gold Council)から「Understanding China’s gold market」というレポートが発表されました。現在世界最大のゴールドの生産国であり、また昨年2013年はインドを越えて世界最大のゴールド輸入国にもなった中国は、現在、ゴールドマーケットにおける最大のプレイヤーであることは間違いありません。中国の現在のゴールドマーケットを理解するというこのレポート、そのタイトル通り参考になるものだと思います。今回はそれの骨子をみながら、中国のマーケットを考えてみましょう。
「2013年、中国は世界最大のゴールドのマーケットとなり、世界のゴールド需要の約30%を占めるに至った。2017年の終わりまでには、少なくともここから20%増加すると見ている。この圧倒的な規模と、それがゴールドマーケットに与える影響から中国はゴールドマーケットのステージの真ん中にいると言える。」
「要旨」
中国のマーケットは複雑であるため、ゴールドの流れを解明し、それを利用して消費者の需要を推し量ることは非常に困難な仕事である。
・貿易統計データが不完全:
中国はゴールドの輸出入の数字を発表しない。そのため現物の流れを推測するためには中国以外の国からの情報源に頼ることになる。また、これらのデータはスクラップや精錬前の鉱石も含まれるため、そのままの数字では使えず、注意深い「翻訳」が必要である。
(解説)
中国ではゴールドの輸出入はいまだに自由化されていません。輸入は限られた銀行のみが許されており、(最初は4大銀行、その後2nd tierも入り9銀行、今は海外の銀行も数行、その許可をもらっています。)輸出は原則許されていません。中国はゴールドの輸出入統計を発表していませんが、ほとんどのゴールドは香港を経由して中国本土に入ってきているので、香港の輸出入統計を見るのがもっとも簡単でおそらく正確な数字が得られると考えられます。最近は直接上海や北京への輸出もありますが、まだまだその割合は低く全体的なピクチャーをつかむためであれば香港の貿易統計の中の中国向けのゴールドの数字がもっともよい統計数字だといえるでしょう。
・SGE(Shanghai Gold Exchange)の現物受渡しは消費者による需要だけではない:
中国のゴールドマーケットの構造は、ゴールドの流れの大部分がSGEを通して行われている。その大きな部分は宝飾品、地金、コイン、そして工業用の需要であるが、ここからほかのマーケットへ流れていく需要も存在する。またずっと中国をめぐっているゴールドもここに含まれており、これらは最終消費者の需要とはまたちがったものである。
しかしひとつはっきりしていることは、中国の消費者のゴールドの購買意欲は大きく上昇し、今度も継続的なゴールドの需要を形成していくであろうこと。
(Chart1:伸び続ける中国のゴールド需要)
・宝飾分野の在庫が増加:
宝飾需要が劇的に増加し、供給経路が増大、全体的にみると宝飾業界全体での在庫のレベルが上がっており、そこがゴールドを吸収している。
(Chart2: 2009年から2013年で宝飾需要は3倍に
(解説)
現在中国には600都市以上にゴールドの小売店が存在します。宝飾品店は10万店を越えています。中国の宝飾生産のハブともいえるシンセンでは3600社もの宝飾会社があり、それに加えて5000以上の個人経営の宝飾業者がいるとのことです。これだけの数の業者が顧客の要求にこたえられるように在庫を持つわけで、WGCの推計によると2009年から75トンから125トンくらいのゴールドの在庫がこのサプライチェーンの中に吸収されているとみています。
・銀行業界の商品開発:
中国ではゴールドはお金と同義であることを考えると銀行業界がゴールドに対するリスクを増やし、多くのゴールドの投資商品やサービスを開発してきている。Gold Accumulation Plan(GAP:純金積み立て)、ゴールド・トレーディング、ゴールド担保による貸付、ゴールド・リースなどがその代表。
(Chart 3: 中国の銀行のゴールド商品開発によりゴールドの取り扱いが急増)
(解説)
中国工商銀行(ICBC)が純金積み立てを開始したとき、確か2012年8月だと記憶しますが、それから12月まで4ヶ月足らずでなんとICBC一行で100万口座を達成したということでした。純金積み立ては日本で始まったサービスですが、日本では20年近くかけて、すべての業者の残高を足しても、最高口座数は70万口座くらいであったということでした。たった数ヶ月で、それもたった一行がこれだけのことを成し遂げてしまう。その数の力に我々は唖然としたものです。現在は純金積み立てや現物の販売のみならず、銀行はゴールドを用いたストラクチャー物を販売したり、SGEでのゴールドのトレーディングのプラットフォームを個人投資家に提供(つまり銀行がブローカーの役割を果たしている。)したり、またお客さんが購入したゴールド現物を預かる仕事、それを担保としてお金を貸したり、また加工業者にゴールドをリースしたりといったことまで手がけています。中国の銀行にとってゴールドビジネスは非常に重要な位置づけになっているのです。ゴールドをもはやほとんど取り扱わない日本とはまったく対照的です。
・中央銀行のゴールド購入:
中国の中央銀行もほかの新興国の中央銀行がやっているように、ゴールドを買っていると思われる。
(Chart4: 外貨準備にしめるゴールドの割合。中国は極端に低い)
(解説)
中国のゴールド準備は2009年に発表された数字1054トンが、現在にいたるまで変更されていません。そもそもこの数字は発表義務があるものではないので、中国はおそらく政治的に意味があるときに発表するのでしょう。ただこの数字が発表された2009年から現在に至るまで中国では世界一のゴールド生産高となり、その上2013年は世界一のゴールド輸入国にもなりました。これだけ大量のゴールドを国内で生産そして海外から輸入しながら、中央銀行がそのゴールド準備を増やしていないとはまず考えられません。このレポートの中では少なくとも500トンは増えているはずと書いてありますが、2009年以降のゴールド生産高と輸入量、から国内の需要を引いたバランスがすべて人民銀行であったとするならば、その量はもっと大きく増えて2500トンから3000トンになっているのではないかとする向きもあります。しかし本当のところは彼らの正式な発表を待たなければならないでしょう。
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