香港からの中国のゴールド輸入
中国のゴールド輸入量は、香港からの輸出入統計という形でつかまれています。中国自体がどれだけのゴールドを輸入したかは発表していないということがありますが、実際に中国に入るゴールドのほとんどが香港経由シンセンであったことを考えると、この数字をみると中国のゴールド輸入量をほぼ正しく把握できるといって正しいでしょう。最新の7月末の数字は21トンと2011年5月以来の低水準に沈みました。ちなみに昨年7月末の数字は113トンであり、今年の低調さがよくわかると思います。
(香港から中国へのゴールド輸出量推移:kg)
しかし、今年からは上海や北京からもゴールドの輸入が許されるようになり、この2大都市での輸入も増えつつあるようです。ただ、これがどれくらいになっているのかは発表されないのでわからないのですが、香港からの数字だけを見れば中国のゴールド輸入のほぼ全てがつかめる時代ではなくなってきたかもしれません。そういう意味では今年に入ってから香港経由の輸入量が減少しているのは、上海・北京の輸入量が増えている可能性もあります。しかし、全体的に考えるとやはり中国のゴールド輸入は低調であるといわざるを得ないと思われます。上海黄金交易所(SGE)のプレミアムは、昨年一時20ドルを超える状況にありましたが、現状ではだいたい3~4ドル程度で推移しており、比較的落ち着いています。中国へのゴールド輸入にかかるコストは2.5ドルから3ドルであるので、3~4ドルというプレミアムは、まさに普通のプレミアムであり、昨年2013年のように大量にゴールドの輸入を促すためには、はるかに高いプレミアムが必要であり、SGEの現状のプレミアムがやはり中国国内での需要の盛り上がりの無さを示しているといえます。昨年は香港からのゴールド輸入は1139トンありましたが、ここまでの数字を比べてみると昨年は725トン、今年は484トンと3割以上大きく減少しています。
今月からSGEの国際化バージョンともいえるSGEI(IはInternational)が始まりました。これは上海のFTZ(Free Trade Zone)において外国のプレイヤーに開かれたゴールド取引を始めるためのものです。まだ始まったばかりでほとんど目立った出来高もありませんが、今後中国にゴールドの需要が戻ってくるとすれば、ゴールドは香港ではなく、上海に直接送られる可能性が高くなるかもしれません。もしそうなれば、今後はこの取引所での現物の引き出し数量(これは発表されています。)が重要な数字になってくるかもしれません。そして香港のゴールド現物での地位が相対的に低下することになるでしょう。中国はゴールドの輸入量や中央銀行の購入そしてその結果のゴールドの保有量を定期的にIMFに報告することはしていません。2009年に発表した1054トンという数字が最も「最新」の数字であるわけです。今後もおそらく中国は、この数字を発表することでなんらかのメリットを受けない限りはこの数字を更改することはしないと思われます。中国のゴールド保有量はまだしばらくミステリーということでしょう。
香港絡みでもう一つ。Comexを所有するCMEが今年年末にも香港でキロバーでの現物決済可能な取引を始めると発表しました。これは世界一のComexのゴールドコントラクト(CG)と同じ取引システムであるGlobexの上で取引され、ほぼ24時間ドル建てで取引されるということです。同じシステムの上ということで、容易に裁定取引ができ、また実際にキロバーの現物を受け渡しできることから、先日はじまったSGEIや10月13日に始まりが伸びたSGXの取引よりも、環境的にはすぐに馴染みそうな気がします。これが活発になるとアジアのキロバー現物市場におそらく大きな影響を与えそうです。Comex Goldに対するアジアのキロバーのプレミアム・ディスカウントも、この取引がベンチマークになる可能性もあります。このところアジアのゴールドのハブが、シンガポールになってしまったという印象が強いですが、この取引がうまくいけば、再び香港の重要性が増してくるかもしれません。昔から個人的に香港は大好きなので、ぜひこれが香港マーケットの活性化につながることを願います。またマーケットとは関係ないですが、現在、香港の高度な自治を守るための民主派にデモが発生して、中国返還以来の大きなデモになっています。中国はこれに対して静観しているようです。願わくば大きな混乱にならなければいいのですが。
★池水氏の著書『「金投資の新しい教科書」/日本経済新聞出版社』好評発売中!!
https://goldnews.jp/count2.php?_BID=3&_CID=16&_EID=773