ゴールドコラム & 特集

2014年の振り返り

「年末に際して」

今回が今年最後になります。

まず最初に年末のご挨拶。読者の皆様、そして関係者の皆様、今年もいろいろとありがとうございました。今年はサイトが途中で変わり、「ゴールドディーリングのすべて2」から「ゴールドディーリングのすべて3」へと変わりました。この過程でいろいろと尽力してくれた方々には本当に感謝の気持ちでいっぱいです。来年もまた同じように貴金属市場をめぐる四方山話を書いていければなあと思います。それを少しでも皆さんが楽しんでもらって役に立てたのであれば、これ以上の幸せはありません。来年が皆さんにとってよい年となりますように。

On the Christmas day

Bruce Ikemizu

「2014年先物相場の振り返り」

今年も残るところあと数日となりました。この一年を振り返ってみましょう。まずは商品相場全体の年初からの騰落率のチャート(12/22NY2:19pm現在)は以下です。今年これまで上昇したのは圧倒的にコーヒーでした。なんと55.6%も上昇しており、圧倒的です。コーヒーは貴金属など比べものにならないくらい大きく動く相場商品です。僕はコーヒー大好きで毎日何倍も飲んでいますが(最近はセブンイレブンがお気に入りです)、この価格変動をよく受容できているものだと感心します。その次に上がったのは牛肉が二種類(Feeder Cattle 32.1%、Live Cattle 20.2%)が続き、そしてNasdaq100が19.9%、VIX(恐怖指数)が16.8%、その次にパラジウムが来て13%の上昇となりました。米ドルは12%、日経平均225は8.7%の上昇でした。ドルや日経平均はもっと上がったような印象がありますが、実はパラジウムの方が上がっていたのです。ましてコーヒーや牛肉にはまったく及ばない程度の上げだったのです。マーケット規模の圧倒的な違いがもちろんありますが、投資パフォーマンスという観点からは株やドルのみならずこれらの商品の圧倒的な上昇率はもっと注目を浴びていいのではと考えますが、残念ながらまだまだコモディティマーケットはマイナーな存在ですね。

(2014年の商品先物騰落率)



最も下がったのはやはり原油です。年初から43.3%の下落。灯油そして天然ガスなどのエネルギーがワースト1、2、4位となっています。貴金属ではシルバーが一番大きく下落し、19.2%の下げとなりました。そしてプラチナが14.2%の下げ、ゴールドは年末にかけて年初のレベルまで戻してほとんど動きなしの2.3%の下げでした。円安の動きが非常に大きい印象がありましたが、それでも12.2%の下げであり、原油をはじめとするエネルギーに比べるとその下落幅はさして大きくないとさえ感じてしまいます。しかし改めて米ドルに対する各通貨の動きと比べてみると(下図)、主な先進国通貨の中ではやはり日本円の下落が目立ちます。結果論でいうと2014年のベストトレードはコーヒーのロング、その次は原油のショートであったと言えます。貴金属ではパラジウムのロング、シルバーのショートが最もよいパフォーマンスでした。そして通貨ではドルロング円ショート。そしてもう少し考えると円建てパラジウムが実は29%の上昇でした。日本の投資家は年初にパラジウムを買っていれば非常によい投資になったはずです。



「貴金属マーケットの振り返り」

Gold



今年2014年のレンジは1131ドルから1292ドルでした。(まだ終わってないけど。)昨年2013年が1700ドルから始まり結果的に1200ドルまで500ドル近く大きく下げたことを考えると今年のレンジ160ドルというのは非常に狭いレンジでの推移でした。今つらつらと毎朝のBruce Reportのタイトルを今年一年分見直してみましたが、今年の相場のテーマをそこからピックアップすると主だったのは以下。

・米金融緩和の終了
・ドル・株の上昇
・ETFの売り
・中央銀行の買い
・中国の不在
・年後半からのインドの買い
・原油の下落
・ルーブルを筆頭とする新興国通貨の下げ(逆に言うとドルの一人勝ち)

金融緩和の終了後の米金利の上げを予想、そしてその結果のゴールド価格の下げを予想する向きが多かったのですが、米金利は逆に一年を通してほぼ一環して下がり続けました。

(米国債10年物利回りとゴールドの価格推移)



そのため、大方の予想ほどゴールドは下がらず、年初から年後半前までは1250ドルから1400ドル、中心相場は1300ドルという底堅い動きとなりました。年後半に入り、FRBの資産買取の停止(金融緩和の終了)、そして日銀による異次元の緩和によるドル高・円安の動き、そして原油急落、そしてその影響からの新興国の通貨安により、よりいっそうのドル高。これらの背景によりゴールドはプレッシャーを受け、取引レンジは100ドル下落1200ドルを中心とした動きになり、クリスマスのホリデイを前にポジション手仕舞いも入り1170ドル台で年末を迎えようとしています。



(ドル建てゴールド)



(円建てゴールドとドル円)



Silver



シルバーはゴールド以上に頭が重たい一年となりました。年前半は19-22ドルの動きで19ドルのサポートは堅く思えましたが、9月にこのレベルをブレイク、その後は一時15ドルを割り込むまでの動きとなりました。ゴールドに対しても一時1:78という圧倒的な銀割安の金銀比価にまで上昇しました。年初は1:60であったことを考えるとシルバーはゴールドに対して非常に割安になったといえます。歴史的にみてもこの比価は割安であり、長期的な視点からはゴールドよりもシルバーにより買い妙味があると言えるでしょう。今後景気回復がすすみ、工業生産が伸びれば素材としてのシルバーの需要が増加し、ゴールドとの比価も訂正が入ると思います。ただ供給サイドではシルバーが副産物となる亜鉛の増産が見込まれており、需給は需要が大きく伸びない限り緩めになりそうです。

(金銀比価)



(ドル建てシルバー)



(円建てシルバー)



Platinum



PGMの最大の材料は年前半の南アのストライキでした。このストライキは五ヶ月も続きましたが、目立った上昇はせず前半は1350-1500ドルのレンジ、そして8月以降は、金融緩和の終了を材料としたゴールドおよびコモディティ全体の下げに引っ張られ、ほぼ一直線に1500ドルから1200ドルまでの下げとなり、生産コストと見られていた1400ドルも割り込み、年末には1200ドルを割り込む場面もみられました。ストライキにもかかわらず大きく上昇をしなかった最大の要因はふんだんな地上在庫にありました。ここ数年プラチナは供給過多であり、そのための地上在庫により、今年前半のストライキにも現物が足りなくなることはありませんでした。しかし1200ドルは南アの生産コストをはるかに下回ります。また今年とそして来年もさすがに供給不足に陥ります(地上在庫はまだあるようですが)。このレベルは長期的には非常に安いレベルにあると思います。

(ドル建てプラチナ)



(円建てプラチナ)



Palladium



今年の前半は700ドルから900ドルへほぼ一本調子の上げとなりました。地上在庫が豊富だったプラチナとは対照的にここ数年供給不足状態にあったパラジウムには南アのストライクそしてロシアのウクライナ問題は直接的に上昇の材料となりました。しかし9月以降のゴールドおよびコモディティ全体の下げにパラジウムも引っ張られて下げ、一時750ドル割れの場面がありました。しかし他の貴金属に較べるとやはりもっとも底値の堅さや戻りの強さを感じます。新興国でのガソリン車の需要増、そして地上在庫がほとんど存在しない状況、2015年はさらに深刻になる供給不足も予想されており、750ドル近辺では長期的にも絶好の買い場と考えます。

(ドル建てパラジウム)



(円建てパラジウム)



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岡藤商事株式会社

プロフィール

池水 雄一

Yuichi Ikemizu

スタンダードバンク東京支店長

1990年クレディ・スイス銀行、1992年三井物産貴金属リーダー、2009年より世界一の金取引量を誇るスタンダードバンクの東京支店長に就任し、現在に至る。一貫して貴金属ディーリングに従事し、世界の貴金属ディーラーでBruce(池水氏のディーラー名)を知らない人はいないと言われている。著書に「THE GOLD ゴールドのすべて」など。

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