ゴールドコラム & 特集

Comex Gold Kilo Futuresについて

2015年1月26日からComex Gold Kilo Futuresが始まります。昨年9月の上海黄金交易所(SGE)のInternational Board、そして10月のシンガポール(SGX)の新しいキロバーコントラクトと、新たなゴールドの上場が相次ぎました。その両方ともおそらく成功しないだろうと僕は書きました。(シンガポールはほとんど望みなし。上海は国内のマーケットが大きいので、うまく機能できれば将来的に取引が盛り上がる可能性はあると思いますが。)はじまって数ヶ月たちましたが、残念ながら僕の予想通り両方とも鳴かず飛ばずの状態が続いています。もちろん、将来的に軌道にのる可能性はあるわけで。まだ最終的な判断には時期尚早でしょうが。

この上海、シンガポールでの新しい試みに加えて、今度は香港にてまた新たなゴールドの取引が開始されます。これはComexを取引するCME (Chicago Mercantile Exchange)が、Comex Gold Kilo Futuresという新たな現物ベースでの取引です。これは先行した上海やシンガポールと違って個人的にはもっとも成功する可能性が高いと思います。SGEやSGXに対してあれだけ厳しいことをいいながら、CMEに対してはずいぶん甘いなと思われるかもしれませんが、それには理由があります。

・まずその最大にして唯一といってもいい理由は、現在世界のゴールドマーケットの中心にあるComexでの取引であるということです。今、世界のゴールドの価格は事実上CMEの中のComexの先物取引(100onz Gold Futures)によって決められています。つまり世界中の人がそれを取引しているということです。その同じシステムの上でこの現物取引が行われるわけであり、Comexをすでに取引している(おそらく大多数のゴールドトレーダーは取引しているはず。)プレイヤーは新たなシステム的な投資は必要なく、そのまま100onz Futuresの横で取引できるということになります。これは非常に大きなメリットになります。

・そして香港は依然としてゴールド現物取引の大きな基地であること。2012年は月間平均にして44トンのゴールドが、2013年には毎月平均92トンのゴールドが香港から中国へ輸出されています。中国のゲートウエイとしての香港の役割を考えるとここでキロバーが受け渡しできるということは、多くの市場参加者にとってはとても使い勝手がよいはずです。

(中国から香港へのゴールド輸出量)



現物の受け渡しに関しては簡素化されており、Tocom / SGX / SGEのように複雑なプロセスは必要なく、だれでもその能力さえあれば現物の受け渡しができる。これは市場参加者にとっては大きな魅力。Tocomで受け渡しができる会員は商社と外資銀行系のブリオンハウス(うちのことだけど。笑)だけに限られ、SGXはTier 1メンバーがデリバリーできるバーかどうかを決める権限を持ち、SGE International Boardでは現在は中国系の銀行一行だけがその許可を出す権限がある状態で、どの取引所も誰でもゴールド現物をデリバリーできるという状態とは程遠く、ほとんどの人が現実的に受けはともかく渡すことは不可能という立て付けなのです。それをCMEは誰でも、直接ロンドン・グッド・デリバリー・ブランドの精錬所から(つまりマーケットに流通する前のバージン・バー)、香港の指定倉庫(Brinks / G4S / Malca-Amit)に指定運送業者(倉庫と同じ)による持込であればオッケーとしました。倉券を作ったり、受け渡しの許可を得る必要はありません。

(Comex Gold Kilo Futures 受け渡しの経路)


・この簡易化された受け渡しシステムは、新たな可能性を考えさせてくれます。同じロンドン・グッドデリバリーブランドのバージン・キロバーであれば、Tocomとまったく共通したデリバリーになるということ。もしCMEとTocomがお互いのキロバーでの受け渡しを共通化させることができれば、参加者の取引可能性が大きく広がることになります。つまり両取引所が、お互いの取引所で受け渡しされたものはそのまま、もうひとつの取引所でも受け渡し可能であるという合意さえ作ることができれば、TocomとComex Gold Kilo Futuresとの間の裁定取引が活発に行われることになり、これまでTocomに対する受け渡しが海外勢の参入を阻む最大のネックであったのですが、CMEをかませることによって、Tocomへの現物渡しが可能になります。Tocomが割高であり、現物を渡しても利益がでるような時は、単純にComex Gold Kiloを買い、Tocomを売るというオペレーションで、Comexから現物を引き、そのまま東京に持っていってTocomで渡すというようなことが可能になり、誰でもTocomに現物を渡すことが理論的に可能になります。これはCMEにとってもTocomにとってもお互いが利する話であり、ぜひ真剣に検討して欲しいものです。

・取引限月は100onz Futuresとまったく同じで偶数月。デリバリーは二カ月おき。建値はドル/オンスで、取引単位は1kg(約32.15 onz)。100onz Futuresと同じで、それを比較することによって、Comexに対する香港でkilo barのプレミアム・ディスカウントも一目でわかるようになります。もちろん同じ取引所内なので、100onz Futures との証拠金の相殺が可能です。裁定取引をすればおそらく100onz Futures とComex gold kilo Futuresで逆のポジションを持つことになり、その分に関しては証拠金はいらないということになります。

(新しいGold Kilo Futuresの詳細)



さすがCMEというべきでしょうか。世界でもっとも中心である取引を持つものの強みを存分に生かした新しいコントラクトは、アジアでのゴールド取引を少なからず変える可能性を秘めていると思います。我々東京勢としてはこれを脅威としてではなく、新たなビジネスチャンス、特にTocomにとってはこれは外部からの追い風になるのではないかと思います。僕はちょうどこの取引のスタートに日にまったくの偶然ですが、香港にいます。(25日が香港マラソンのため。笑。この日は帰るだけなんですが)それもまたなんらかの運命かもししれません。コンピュータでなきゃ見て帰りたいところでしたが。笑。期待しましょう。

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岡藤商事株式会社

プロフィール

池水 雄一

Yuichi Ikemizu

スタンダードバンク東京支店長

1990年クレディ・スイス銀行、1992年三井物産貴金属リーダー、2009年より世界一の金取引量を誇るスタンダードバンクの東京支店長に就任し、現在に至る。一貫して貴金属ディーリングに従事し、世界の貴金属ディーラーでBruce(池水氏のディーラー名)を知らない人はいないと言われている。著書に「THE GOLD ゴールドのすべて」など。

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