スイス貿易統計から考えるゴールド
スイスには金鉱山はありませんが、世界の1位から4位までのゴールド精錬所が存在するために、世界一のゴールドの輸出入を誇ります。この四つの精錬所とはArgor-Heraeus, Metalor, Pamp, そしてValcambiです。これらの名前は覚えておいていいでしょう。彼らのビジネスはいろいろなところからいろいろな形状、サイズのゴールドを受け入れて、キロバーなどの比較的小さくアジアや中東で売れるバーに精錬することです。
昨年2014年は、最近発表されたスイス税関の資料によると、スイスは2200トンのゴールドを輸入し、1750トンを輸出したことになっています。中国(香港経由を含む)が最大の輸出先であり、それに次ぐのがインドでした。下の表は上位10国ですが、これで全輸出の90%以上になります。
「スイス輸出入統計から見えてくる中国のゴールド買いの実態」
過去何年間も香港は中国のゴールド輸入の圧倒的に主要な窓口であり、そのためゴールドのアナリストは香港からの輸出入統計を中国のゴールド輸入量の資料として使い、これに中国での生産量、非鉄原料から副産物として出てくるもの、またゴールドの鉱石の輸入、そして国内でのスクラップからの回収を加えたものが、中国でのゴールドの数量として考えられてきました。もちろん、少量のゴールドが香港を経由せず直接中国に入っていましたが、その量はたいしたことがないとほぼ無視されていました。(もちろん発表されていないデータですからそもそもつかみようがなかったのですが。)
しかし昨年中国は規則を変更、今まで以上に香港を経由せずにゴールドの直接輸入ができるようにし、上海や北京でのゴールドの輸入が増加してきました。もちろんこの数量は中国側からの公表はなく、昨年、上海や北京からいったいどれくらいゴールドが輸入されたのかは世界はまだ知りません。そのためほとんどのアナリストは毎月発表される香港から中国へのゴールド輸出数量を中国のゴールド輸入数量として考えているのが現状です。昨年はこの香港からの輸入量が前年2013年よりも32%減少し、多くのアナリストがその分中国のゴールド需要が落ち込んだと判断していました。ところが上海黄金交易所(SGE)の現物引き出しの数字を追いかけると、実は中国のゴールド需要はそれほど悪く、ほんの2-3%のダウンでしかありません。(なぜかこのSGEの現物引き出しの数字はあまり重要視されていませんが。)香港経由の数量の落ち込みに対してSGEでの現物引き出しの堅調さというこの相反する数字の意味するところはなんなのでしょうか。この差こそが、香港経由で入っているゴールド以外の部分、つまり上海や北京から輸入されているのではないかと考えればなんとなく符号しそうです。中国は発表しないと何度も書いてきましたが、その逆側、輸出国側は発表しているのです。最大のゴールド輸出国であるスイスはその輸出入統計を発表しています。そう、上の表における中国の部分で、対香港以外に213トンものゴールドが中国に輸出されていることがはっきりとわかります。また米国の9月と10月のゴールド輸出データによると両月とも米国のゴールド輸出の30%以上が直接中国に向かったことになっています。9月にSGEIと呼ばれるSGEの国際取引コントラクトが上海のFTZ(Free Trade Zone)で始まったので、ひょっとすればその絡みもあるかもしれませんが、現在まで各方面からの話を総合するとSGEIでの取引高はいまだに盛り上がりに欠いており、そのために数十トン以上のゴールドが動いたとは考えづらい状況であり、とすればやはりこれらのゴールドは直接中国本土に向かったと思われます。また中国国内の情報筋からも、中央銀行から中国国内の銀行にゴールドを香港経由でなく直接輸入するようにとの「指導」が入っているとも聞きます。(本当に姿を隠したいのかもしれませんね。香港の数字では世界に筒抜けですから。)スイスの輸出入統計は今後中国のゴールド輸入の実体を考える上で大変重要な資料になってくるでしょう。
スイスは現在世界の鉱山生産高の56%にも当たるゴールドを輸出しています。中国・インドに続くのはアジアの現物需要の集積地であるシンガポールとタイ、そしてトルコとUAEそしてサウジアラビアは中東需要の要でありイランやイスラム国などもここを通じてゴールドを買っているのかもしれません。またUAE(ドバイ)とタイはインドの10%のゴールド輸入関税のために、インド人のゴールド手当ての場所にもなっているのかもしれません。こうやってスイスのゴールド輸出量をみていると、世界各地での現物ゴールドを欲する気持ちはまだまだ非常に強く、この現物需要がある限りゴールドの価格はそれほど大きくは下がらないのではと思います。
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