Peak Gold -ゴールドはあと20年で枯渇?
昨年11月後半とある会議で鉱山会社大手のGoldcorpの作ったスライドショーによると今年2015年は、ゴールド鉱山生産のピークになりそうということです。
このスライドをみると1995年に鉱脈発見のピークがありましたが、ちょうどほぼ20年後の今、その生産がマックスになっています。鉱脈の発見から生産までかかる時間がちょうどそれくらいなのですね。
そして先日、ゴールドマンサックスのアナリストが、「現在発見されている採掘可能なゴールドとダイヤモンドの埋蔵量は20年分しか残っていない。」という衝撃のレポートを発表しました。次のグラフはいろいろな資源の総埋蔵量(棒)と採掘可能年数(四角の点)です。これを見るとゴールド、亜鉛、ダイヤモンドは特にその採掘可能年数が短く、あと20年で掘り尽くすということになります。
ゴールドマンサックスの指摘は以下の通りです。
・地球の表面上にほとんど集中して存在しておらず、高純度の埋蔵地域は少ないことで、ある種の金属や宝石(ダイヤモンド)はまさに希少価値のためにその価値が決まっているといえます。
・この希少性と、もう新たな鉱脈はあるにしても非常に限られているという人々の認識が、ゴールドの価格を動かしています。ダイヤモンドがもっともいい例ですが、ダイヤモンドにはその「本来的な価値」(実用的な価値と言ってもよい)はほとんどなく、まさに天然ダイヤモンドの「希少性」のみによってその価値が決められているといってもよいでしょう。
・ゴールドは富の保存法として4000年の歴史があります。古代エジプト人はゴールドは光って重たいだけではなく、非常に希少なものであることに気づいたのです。
これらの指摘はゴールドの初心者が読むような教科書に書いてあるようなことであり、これに関してはなんら目新しいことではありません。ただGold Corpのグラフにもあるように、これまでの鉱脈発見の実績から考えるとおそらくは今年がゴールド生産の歴史のピークとなり、これからだんだん減少していくという見方は正しいのだと思います。ただ、それがゴールド価格の上昇に直接的につながっていくかとするとそれには疑問符がついてきます。有史から現在まで掘られてきて地上に存在しているゴールドの量は177,000トン(よく言われる50mのオリンピックプール3.5杯分)あり、その大部分がリサイクルできる形で保存されているので(地金やコイン、そして宝飾品など)、それだけの量がなくなることは考えられず、またピークは打ったとしても、まだまだ生産可能な埋蔵量は、GSやGoldcorpの計算が正しいとしてもあと20年間は続くということで、すくなくとも我々が生きている間はゴールド自体が枯渇してしまうということはなさそうです。1970年代に石油の埋蔵量はあと30年といわれました。それが正しければ現在ではもう石油は枯渇しているはずですが、2015年になっても埋蔵量はあと30年と言われています。こと埋蔵量(経済的に採掘可能な資源の量)に関してはそのときの相場や採掘技術の進歩によるところも大きく、今後我々の生きている間にゴールドがなくなって、希少価値がとんでもなく高くなる、ということはまずないと思っています。また万が一そういう自体に近づいたときこそおそらく、鉱山会社は新たなゴールド鉱山を探索し、新たな鉱脈からの生産を始めるでしょう。ゴールド価格が上昇し、これまでは埋蔵量と計算されていなかった鉱脈からの生産も経済的に合うようになり、生産量は増えていくでしょう。20年で埋蔵量が枯渇し、ゴールドが大きく上昇するというシナリオは残念ながら考えにくいと思われます。
(ゴールド鉱山生産量の推移(トン))
ちなみに上記のGoldcorpのスライドの中には世界の主要な鉱山会社の生産コスト(All in Sustaining Cost)が上げられています。それによると1000ドルから1200ドルの間がほとんどの鉱山会社の生産コストになっており、1000ドルを下回ると90%ものゴールド鉱山会社が赤字に陥ることがよくわかります。だからと言ってそれ以上下がらないという根拠にはなりませんが、ゴールドの価格がこれだけのドル高にもかかわらず1150ドル当たりで下支えされているのはこういった鉱山会社の産金コストがマーケットに意識されているのも一つの要因にはなっているのではないでしょうか。
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