ゴールドコラム & 特集

スポットゴールドを巡る二大陣営の対立??

2016年に入って圧倒的な投資家の資金流入により、1050ドルからほぼ300ドル上昇したゴールドマーケットが、少し変な雲行きになってきました。


(ドル建てゴールド過去2年の動き)


8月9日にWGC(World Gold Council:世界的なゴールドの販売促進機関でありスポンサーは鉱山会社)とLME(London Metals Exchange:非鉄金属の取引所)がLMEpreciousという新たなゴールドの取引所取引の開始を計画中というニュースが出ました。これは来年2017年の第1四半期にスタートする予定で、LMEの中にゴールドとシルバーのスポットと先物のコントラクトを上場するというものです。創業139年というLMEはWGCと協力して、5つの銀行を中心に、今まではLoco London Gold 取引として、OTC(Over the counter - 相対、seller と buyer間の1対1の取引)取引が行われていたのを、LMEという取引所取引にして、いわゆるカウンターパーティーリスクをなくし、クリアリングハウスによる決済により、市場全体の信頼度を増すというのが目的です。この計画に最初から賛同して参加している銀行は Goldman Sachs、ICBC Standard Bank、Morgan Stanley、NatixisそしてSociete Generaleの5銀行です。ここ数年、100年以上も続く伝統のLondon Fixingによる値決め方式の「不透明性」が問題となり、それぞれのメタル(ゴールド、シルバー、プラチナそしてパラジウム)ごとに、新たなシステムによる透明であり「公正」な値決めが行われるようになりました。(LMEはそのうちのプラチナとパラジウムのシステムを提供しています。)ただし、これらはあくまで一日二回(シルバーは一回)だけロンドン時間に行われるLBMA Priceの値決め(要は旧Fixing)価格の話であり、この値決め以外では従来どおり、OTCのLoco London marketはそのままでした。

今回のLMEとWGCによる新しいイニシアチブは、そのOTC取引をすべて取り込んで「取引所取引」にしてしまおうというものです。コントラクトサイズはゴールド100オンス、シルバー5000オンスで、CMEとまったく同じです。実際LIBOR問題に端を発したFixingに対するネガティブな風潮はOTC取引の敬遠という形になり、Loco London取引は以前のようにゴールドマーケットの中心とは言いがたい状況になり、現在はどう見てもGlobexというシステムでほぼ24時間取引ができるようになったCME(Chicago Mercantile Exchange)のComex取引が世界のゴールド取引の中心になっていて、そこで価格が決まっているといっても過言ではない状態です。今回のLME&WGC連合の動きは、価格決定権を米国の先物取引所から少しでも取り戻したいという思惑があることは間違いないでしょう。

そしてこの話にはもうひとつの側面があり、特に英国のマスコミはそちらをはやし立てています。それはこのLMEに付いたGoldman Sachs組(上記の5銀行)に対して、従来のOTCマーケットを守ろうとする立場のJP MorganとHSBCの二大銀行を中心とする銀行の対立です。彼らはLBMA(London Bullion Market Association)と共に、従来の形のOTCマーケットで十分という立場であり、その中で透明性を増す努力をするべきだと主張しています。LMEとLBMAとの対立という構図もこの中では見えてきます。実際LMEにとってはゴールドを手がけるのは3度目のことであり、過去の2回、ゴールドの先物取引を上場しようとして失敗しています。当時は圧倒的な存在であったLoco LondonのOTCマーケットが存在したこと、そして先物はNYが既に支配的な存在であったことがあり、ロンドンに先物取引を上場することにメリットを感じるプレイヤーはほとんどいなかったと言えます。しかし、今回は環境が大きく変わり、市場参加者の多くが、透明性が高く、リスクも少ない「取引所取引」により傾倒しており、チャンスは大きいと思われます。

もしLMEの計画通りにLMEにゴールドとシルバーのスポットと先物が上場されれば、それは現在のマーケットの流動性がより拡散されて、かえって良くない結果になるのではないかということです。

いずれにしろいろいろな報道がなされています。10月にLBMA Precious Metals Conferenceがシンガポールで開かれますが、この問題がそのコンファレンスでどのように扱われるのかが興味深いところです。


岡藤商事株式会社

プロフィール

池水 雄一

Yuichi Ikemizu

スタンダードバンク東京支店長

1990年クレディ・スイス銀行、1992年三井物産貴金属リーダー、2009年より世界一の金取引量を誇るスタンダードバンクの東京支店長に就任し、現在に至る。一貫して貴金属ディーリングに従事し、世界の貴金属ディーラーでBruce(池水氏のディーラー名)を知らない人はいないと言われている。著書に「THE GOLD ゴールドのすべて」など。

最新コラム

新着ゴールドグッズ

一覧を見る