ゴールドコラム & 特集

シルバー

どうしてもゴールド、そしてプラチナの話が多くなるので今週はシルバーのベーシックを書きましょう。今はロイターに買われたGFMSのWorld Silver Survey 2013の数字からまずはその需給をつかみましょう。

(シルバーの需給)



「供給」

(鉱山生産)

2012年のシルバーの鉱山生産は約24500トン。ゴールドの2012年の鉱山生産が2867トンなので、その鉱山生産量だけを比較するとゴールドの約8.5倍ということになります。その他スクラップや公的機関からの売却等を合計した供給合計を比べるとシルバーは32604トン、ゴールドは4477トンとなり、約7.3倍になります。そして現在のその価格関係を考えると、シルバーは19.50ドル、ゴールドは1260ドルで、その比価は約65:1になります。生産量の比較から考えるとゴールドが高すぎるのか、シルバーが安すぎるのかという気がしますがどうでしょうか。その昔、英国の財務相だったかのアイザックニュートンが16:1という金銀比価を決めましたが、そのほうがあるべき姿に近い気がしますね。そういえば1980年にテキサスの石油王、ハント兄弟がしかけたシルバーの買占めは、金銀比価を5:1にまで持っていくことが目標だったといわれます。彼らはそれにほぼ成功しかけていました。シルバーは5ドルから55ドルまで急騰したのですから。

 閑話休題。シルバーの鉱山生産で一番多いのはメキシコで5044トン。第二位は中国の3639トン。第三位はペルーで3461トン。この三国で12000トンあまり、世界の鉱山生産のほぼ半分を産出しています。

(シルバー生産国 Top20)



この生産国というのはあくまで銀鉱山からの産出量なのですが、実はシルバーは銀鉱山からの産出よりもむしろ、ほかの金属の鉱石から副産物をして出えてくるものが多いのです。その割合をみると実は、銀鉱山由来のもの28%ほどであり、もっとも多いのが鉛・亜鉛の副産物としてのシルバーです。これが39%、銅鉱石から取り出されるものが20%、金鉱石から取り出されるものが13%になります。日本には戦国時代から江戸時代にかけて、石見銀山という当時の世界最大級の銀鉱山がありましたが、現在は現役の銀鉱山はありません。それでも日本の鉱山会社もシルバーを生産しています。これらのシルバーは亜鉛・鉛、銅などの鉱石の精錬・精製過程で出てくる副産物として生産されたものです。韓国も同様です。



(鉱山生産コスト)



GFMS Silver SurveyではPrimary(銀鉱山)での採掘コストを計算しています。副産物のコストは入っていません。これを見る限りまだシルバーの価格は採算からは十分なマージンを保っているといえます。ただし年々大きく上昇しており、この傾向は続いていくものと考えられます。コストアップの原因の最大のものは人件費であり、これは世界中で熟練鉱山労働者の不足から、各地のインフレ率を上回るスピードでコストが上昇しています。また低品位の鉱石の処理が増えてきて、その精錬に対するコストが増大。そして採掘に必ず必要なエネルギー(原油)の価格が大きく上昇していることも生産コストの上昇に拍車をかけています。その他の要因としては上昇する電気代、化学薬品、鉱山採掘に必要な消耗品、そして鉱山維持費などが上げられます。そして商品価格上昇と足並みをそろえて上昇する鉱山権利金や生産にかかる税金もあり、シルバーの採掘コストは年々数10%のスピードで上がっていくものと思います。

(地上在庫からの供給)

鉱山生産による供給が24478トンであるのに対して、すでに地上に存在している在庫からの供給は8126トンで約1/3にあたります。地上在庫とは、シルバーを使った製品のリサイクルから出てくるもの、もしくは個人や企業、そして公的機関が保有しているシルバーを動かしたことにより出てくるものです。鉱山生産は過去10年間増え続けていますが、地上在庫の動きは逆に2011年をピークとして2012年は減少しています。その要因としては、生産者がヘッジ売りをほぼ止めたこと、中央銀行など公的機関のシルバー売却の減少、回収されるスクラップの減少などがあげられます。ここ数年のシルバーの価格の高騰にもかかわらず、シルバーのスクラップの回収がゴールドほど大きなものにならないのは、ゴールドの場合は宝飾などゴールドの含有率が非常に高く、その製品の価格の大きな部分がゴールドの価格である場合が大半であるので、価格の動きに非常に敏感に反応します。シルバーの場合は、宝飾品、銀食器やコインなどは同じ情況にあると言えますが、その場合でもシルバー自体の価値がゴールドに比べると遥かに低いことが、ゴールドのような反応を生み出さない理由になっています。シルバーを使った工業用や写真用の用途では。シルバーの含有率は低く、そのためにシルバーのスクラップは価格やその変動率に対する弾力性は低いものになっており、それよりもその特定分野での景気動向や政府による環境保護政策などに影響をより強く受けるといえます。

(確認できる地上在庫)



現在、シルバーの主にインゴットの形で保管されている在庫されている数量です。ヨーロッパのトレーダー(主に銀行)が保管するシルバーの量が圧倒的です。この中にはETFでの買いも含まれていますが、需給的にはやはり供給が過多な情況の結果、在庫が増えていると考えることもできると思います。コメックスの在庫も2012年に大きく増加しました。これは1997年以来のレベルで、2013年には5000トンを越えています。これは鉱山生産が好調であったこと、それに対して工業用需要と個人の投資需要が今ひとつであったことの結果だと考えられます。

続く。来週は「需要」です。

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岡藤商事株式会社

プロフィール

池水 雄一

Yuichi Ikemizu

スタンダードバンク東京支店長

1990年クレディ・スイス銀行、1992年三井物産貴金属リーダー、2009年より世界一の金取引量を誇るスタンダードバンクの東京支店長に就任し、現在に至る。一貫して貴金属ディーリングに従事し、世界の貴金属ディーラーでBruce(池水氏のディーラー名)を知らない人はいないと言われている。著書に「THE GOLD ゴールドのすべて」など。

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