米債務問題、上院合意で安全資産の金価格が反発した理由
米議会上院の民主・共和両党は16日、来年1月15日までの暫定予算案を編成すると同時に、同2月7日まで連邦債務上限を引き上げることで合意した。まだ下院での議会交渉に不透明感が残るも、財務省が期限として指定した10月17日を前に、経済・市場の混乱回避に向けての調整作業が漸く前進し始めている。
これによって全ての問題が解決された訳ではないものの、当面は政府機能の再開とデフォルト回避の動きが、調整色を強めていたリスク資産に対してポジティブ、逆に退避需要が高まっていた安全資産に対してはネガティブに働くことが予測される。
実際に、10月16日の米市場ではダウ工業平均株価が前日比+1.4%の急伸となり、CRB商品指数も前日の286.31から287.60まで上伸している。米経済、更には世界経済の先行き不透明感が、改めてリスク資産に対する資金流入を促していることが確認できる。
本来であれば、この相場環境で金価格は急落して然るべき環境とも言える。ただ、実際の金相場はこの合意が伝わる前の1オンス=1,270ドル水準に対して、合意報道が確認された直後に1,280?1,285ドルのレンジまで急反発している。
この値動きをどのように考えれば良いのだろうか?
■財政リスク後退が金価格を押し上げたロジック
まず確認しておくべきは、米財政協議の進展は「安全資産」としての金価格にとってはネガティブだが、「購買力指標」としての金価格にとってはポジティブに機能することだ。
米上院の合意が伝わった直後、株価やコモディティ価格は一気に上昇に転じており、WTI原油先物相場に至ってはニューヨークタイム序盤の1バレル=100.75ドルに対して、一時は102.97ドルまで最大2.22ドルもの急反発となっている。このため、資産価格全体の水準が切り上がった動きと連動して、「購買力指標」である金価格もそれに連れ高したというのが、「米国の財政リスク後退にもかかわらず、金価格が上昇した」背景だと考えている。
そもそも、10月の金価格は特に連邦債務上限の引き上げ交渉が暗礁に乗り上げるリスクを織り込んで買われてきた訳ではない。逆に、最終的には議会が合意に達するとの楽観的な観測から売り込まれてきたのは、10月2日付けの「米政府閉鎖でも上がらない金価格の論理」でも指摘した通りである。
マクロな視点で考えれば、米経済の成長見通しに対する信認回復の流れと連動して、金価格は下落する可能性が高いとの見方を維持している。米債券購入プログラム縮小ペースの鈍化は避けられない情勢になっているが、これが再び債券購入の拡大方向にシフトするといったベクトルの変化がない限りにおいては、金価格の購買力が増強される理由は見当たらない。他資産価格全体のパフォーマンスを下回る形で、金価格は下落することになるだろう。
ただ短期スパンでは、米財政協議の先行き不透明感からファンダメンタルズとかい離した安値形成が進んだ資産価格の調整圧力(=上昇圧力)が、金価格のダウントレンドに一定のブレーキを掛けることになる。資産市場全体が米財政協議を巡る混乱状況から抜け出せば、改めて米金利上昇・ドル高傾向がドル建て金価格の上値を圧迫しよう。
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