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プラチナ・コイン、米造幣局が5年ぶりに販売を再開した理由

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米造幣局(US Mint)は3月10日、1オンスのプラチナ・イーグルコインの販売を再開した。米造幣局は従来、金・銀・プラチナの三種類の公式コインを発行していたが、2008年にプラチナ供給が不足した際にプラチナ・コインのみ販売停止を決定しており、同年11月を最後に新たな発行を見送っていた。

しかし、「顧客からの要望」に応える形で3月5日に販売を決定し、ついに5年4ヶ月ぶりに販売が再開されている。初日の販売高は8,500オンス(1オンス=31.1035グラム)に達しており、米国民がいかにプラチナ・コインの販売再開を待ちかねていたのかが強く窺える状況にある。表面がイーグル、裏面が自由の女神と、伝統的なデザインが採用されている。

■プラチナ・コインの需要が高まる時

プラチナ価格は08年3月に1オンス=2,308.8ドル(円建て高値は1グラム=7,427円)を付けたが、この時点ではプラチナ・コインの販売に大きな問題は無かった。当時の販売統計をみると、月間100?300オンス程度と特に目立った混乱は確認できない。

問題は、その後のリーマン・ショックを受けて、プラチナ価格が急落した後だ。プラチナ価格は08年10月には高値から三分の一以下の価格となる752.10ドル(同2,276円)まで暴落しており、その過程でプラチナ・コインに対するパニック的な買い付けが観測されている。同年9月は1万2,400オンス、10月は1万7,000オンスを売り上げており、通常月の100倍を超える規模の投資需要が発生していることが明確に確認できる。当時は日本の地金商もプラチナ・コインの販売停止を決定しており、個人のみならず専門業者でもプラチナ・コインを確保できない状態に陥った。

例えば、地金大手の田中貴金属工業の場合だと、08年10月7日に販売停止のプレスリリースを出し、ようやく販売が再開されたのは翌09年8月である。いちはやくカナダ王立造幣局がプラチナ・メイプルリーフの鋳造を再開したことで、規模は限定的ながらも販売が再開されている。

その後は、地金型コインの投資需要が価格が急騰した金に集中していたこともあって、プラチナ・イーグルコインの販売停止は余り話題に上らなくなっていた。しかし、08年同様に最近のプラチナ相場低迷を受けて、改めて投資・コレクション目的の需要が拡大しており、その受け皿が漸く提供された記念すべき日が3月10日となる訳だ。

プラチナ・コインが話題になるのは、「プラチナ価格の低迷時」という意味では、現在の相場環境は08年後半と共通するものがあろう。この価格水準であれば、プラチナ・コインを買いたいと考えている向きは多い。

最終的に年間でどの程度の規模の市場に育つのかは不明だが、08年(11月まで)の場合だと年間3万3,700オンスの投資需要を創出している。南アフリカのプラチナ鉱山でストライキが発生して、供給不足が懸念される中での販売再開が妥当だったのかは議論の余地もある。ただ間違いのない事実は、このプラチナ・コインの販売再開は、投資需要項目の押し上げ要因になり、プラチナ需給の逼迫リスクを高めるということである。特に、先物市場とは違い価格低下局面で需要が急増する傾向にあるだけに、「価格低下→需要拡大」という需給理論が機能し易い環境を作り出すことに寄与しよう。



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マーケットエッジ

プロフィール

小菅 努

Tsutomu Kosuge

マーケットエッジ株式会社 代表取締役

1976年千葉県生まれ。筑波大学卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト・東京商品取引所認定(貴金属、石油、ゴム、農産物)。

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