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金・白金の価格差が200ドル突破、正常な価格バランスへの回帰続く

金価格と白金価格のスプレッド(価格差)が急激に拡大している。ドル建てベースだと、3月14日時点の1オンス=90.60ドルをボトムに、直近の5月28日時点では203.40ドルに達している。過去10週間半で、金価格と白金の価格差は2倍強に膨れ上がった計算になる。

この数値だけを見てみると、南アフリカのプラチナ鉱山ストライキで白金価格が急伸していることが、金・白金スプレッドの拡大を促したと「誤解」され易い。しかし、詳細に価格差拡大の動きを分解すると、「白金価格が、金価格との比較で相対的に下げ渋っていること」が、同スプレッド拡大の真相であるのは明らかである。

具体的な数値でみてみよう。3月14?5月28日の間の金価格は1,379.00ドルから1,259.30ドルまで、119.70ドルの急落となっている。一方、同期間の白金価格は1,469.60ドルから1,462.70ドルまで6.90ドルの下げ幅に留まっており、両価格ともに価格変動のベクトルは「下向き」である。ただ、金価格が急落する中でも白金価格が安値拒否の動きを見せていることが、両価格差の拡大を促している訳だ。



■金と白金価格は連動するもの

金と白金はともに同じ貴金属であり、両価格は基本的には連動する傾向にある。四半期ベースで両価格の相関係数(-1?+1の間で両係数の相関度を示す)を調べてみると、昨年は第1四半期+0.60、第2四半期+0.75、第3四半期+0.73、第4四半期+0.72となっており、今年はプラチナ鉱山ストライキで相関が低下しているとは言え第1四半期で+0.53と一定の価格連動性が確認できる状況にある。

このため、どうしても金価格がダウントレンドを形成する中で白金価格の上昇力は限定されることになる。筆者は仕事柄、日々のティックチャートをみているが、金価格の急落に逆行して白金価格が上昇するには、極めて大きなエネルギーが要求されることになる。

ただ、プラチナ鉱山ストライキによって白金需給に引き締め圧力が強くなっていることは事実であり、その影響は「白金価格の上昇」という直接的な形よりも、「金価格に対する白金価格の底固さ」という間接的な形で顕在し易い状況にある。それが足元の金・白金スプレッド拡大の背景である。



■理論上は400ドル超の価格差も正当化できる

問題は、200ドルという金・白金スプレッドがどのような意味を持つのかだが、歴史的にみれば金価格に対して白金価格の割高感が意識されるような状況にはない。2008年のリーマン・ショック発生直前には1,200ドルを超える価格差が生じており、200ドルという価格差は白金価格が1オンス=500ドル前後を推移していた2001?02年当時の水準に回帰したに過ぎないためだ。

もともと、金と白金の価格バランスは、生産コストの違いなどから「白金>金」というバランスが通常の状態にある。貴金属調査会社ロイターGFMSによると、2013年のキャッシュコスト(直接費の合計)は、金が1オンス当り767ドルとなっているのに対して、白金は1,191ドルと、424ドルもの違いがある。単純にコスト環境だけを比較しても、400ドル程度の価格差は十分に正当化できる状況にある。

しかも、金は世界各地で安定的に採掘される一方、白金は南アフリカとロシアという地政学的リスクの高い地域に生産が集中する関係で、1カ国の供給トラブルでも世界的な供給障害に発展し易いのは、現在進行形で確認されている通りである。ちなみに生産高ベースで市場規模も比較しておくと、金が年間3,000トン前後に対して、白金は僅か180?190トン程度である。供給ショックには極めて脆弱な構造になっている。

リーマン・ショック以降は、米連邦準備制度(FRB)が量的緩和という金市場関係者からみれば「禁断の果実」に手を出したことが、金価格の急騰を招き、2011?12年にかけて「金>白金」という異常な価格バランスを作り出した。しかし、米金融政策が正常化に向けての出口を模索するステージに突入する中、金価格に対する過剰な緩和プレミアムは剥落し、金と白金の価格バランスは正常化に向かっている。

金・白金スプレッドの200ドルという節目突破は、世界経済がリーマン・ショック後のリセッション(景気後退)からの回復基調を一段と確かなものにしていることを象徴する一つの傍証と評価している。ここでも、異常から正常への転換が確認できる。



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プロフィール

小菅 努

Tsutomu Kosuge

マーケットエッジ株式会社 代表取締役

1976年千葉県生まれ。筑波大学卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト・東京商品取引所認定(貴金属、石油、ゴム、農産物)。

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