南アのプラチナ鉱山事業崩壊への恐怖
南アフリカのRamatlhodi鉱物資源相は6月10日、南アフリカのプラチナ鉱山業界でリストラ(人員整理)が行われ、操業を継続できなくなるリスクに警告を発した。
プラチナは、宝飾品の他に自動車触媒や石油・化学プラントなど幅広い分野で使用されている工業用金属としての性格を有しているが、現在は世界の総供給の7?8割が南アフリカ1カ国に集中する特殊な供給環境にある。その南アフリカでプラチナ鉱山事業に対するリスクが高まる中、今後も安定的にプラチナを調達できるのか、先行き不透明感が強くなっている。
南アフリカのプラチナ鉱山では、賃上げを巡る労使交渉の決裂を受けて、1月23日から7,000人規模の鉱山労働者がストライキを決行している。労使ともに一定の譲歩を見せているが、鉱山労働者・建設組合(AMCU)が月額1万2,500ランド(約11.9万円)の基本給を要求する一方、鉱山会社はそのような賃金水準では経営を維持できないと拒否しており、両者の間にある深い溝は埋まっていない。6月5日でストは20週間目に突入したが、未だ出口が見通せない状況になっている。
先の総選挙で二期目に突入したズマ政権は、Ramatlhodi鉱物資源相を筆頭に、財務省、労働省と共同でタスクチームを設定して、この問題に介入を開始した。1?3月期に南アフリカ経済がマイナス成長に陥る中、民間の労使問題として放置し続けることが難しくなった訳だ。
6月に入ってから断続的に行われた政府・労組・鉱山会社の三者会談では、労使双方から前向きな発言を引き出しており、政府仲介による労使合意の可能性に期待が持てる状況になっていた。しかし、6月5日の労使協議ではAMCUが再び態度を硬化させており、政府が仲介する労使交渉の最終期限とされた9日の協議でも、労使合意に失敗している。同日に、政府は労使交渉の仲介から手を引くことを表明している。
冒頭の発言は、こうした状況を受けて飛び出したものである。労使リスクの高まりから南アフリカのプラチナ鉱山事業が安定的な収益を出すことが困難な情勢になる中、鉱物資源相が業界の継続性に危機感を示した形になる。
現に、最大手アングロ・アメリカン・プラチナ(アムプラッツ)の親会社であるアングロ・アメリカンは、南アフリカ事業を見直す方針を示しており、一部鉱山の売却交渉に踏み切っている。このままストライキが継続すると、需要に見合った供給量を安定的に確保できなくなるリスクが高まることになる。
この問題を解決するには、1)プラチナ価格の値上がりでプラチナ鉱山事業の収益性を向上させる、2)高値で需要を抑制する、3)パラジウムなど安価で需要代替性がある他金属への需要シフトを促すこと、などが要求されることになる。
その意味では、ここにきてのパラジウム相場高騰は、ロシアと南アフリカからの供給不安を反映すると同時に、プラチナとパラジウムとの間で供給を補完しあう必要性を示したものと評価することもできる。伝統的に、「プラチナ>パラジウム」という価格関係が続いてきたが、両価格がフラットに近づく必要性が高くなっている。
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