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原油相場急落に耐えるシェール革命

12月8日のNYMEX原油先物相場は、1バレル当たりで前日比-2.79ドルの63.05ドルと急落した。世界的な原油供給のだぶつきに対する警戒感が根強い中、週明けと同時に投機売りが加速したことで、5年5ヶ月ぶりの安値を更新している。

「世界的な景気減速(=需要減退)」と「シェール革命(=増産)」を背景に世界の原油需給は緩んでおり、主要国で在庫積み増しの動きが報告されている。しかし、石油輸出国機構(OPEC)は11月27日に開催した総会で減産対応を見送っており、国際原油市場では「誰が減産対応を引き受けるのか」との駆け引きが本格化している。

OPECの政策的な減産が期待しづらい以上、その選択は経済合理性に基づいて決まることになり、どの国が最初に原油安に対応できなくなるのか、我慢比べの様相を呈している。その意味では、2008年に象徴される高い原油に刺激を受けて増産が本格化したシェールオイルやオイルサンド、深海油田などのいわゆる「タイトオイル」が減産対象の筆頭候補に挙がるのは自然な流れである。このため、マーケットはどこまで原油安が進めばこれらタイトオイルの減産が開始されるのかが注目されており、断続的な原油安で高コスト原油の市場からの退出を促すフローが維持されている。

特に、今や世界の石油需要拡大の全てを吸収できる能力を獲得した米国のシェールオイルが注目を集めており、足元の原油安は換言すれば、「シェールオイルは何処までの原油安に耐えることができるのか」との問いかけに対する答えを探る状況とも言える。

しかし、現実問題としてはシェールオイルの減産傾向は未だ確認できず、「60ドル台中盤でも不十分なのか?」との危機感が強くなっていることが、改めて原油価格を下押ししている原動力と考えている。



■減産開始の兆候を探るも

その判断指標の一つに、産油量に直結する石油リグの稼動数が存在する。しかし、少なくとも12月上旬時点では減産の兆候が確認できない状況になっている。

米ベーカー・ヒューズ社の最新統計によると、12月5日時点で米国で稼動している石油リグ数は前週比+3の1,575基となっており、OPEC総会と前後しての原油相場急落の明確な影響が確認できない状況になっている。10月10日時点の1,609基からは減少しているが、その後は概ね1,570?1,580基前後で安定した状況にあり、シェールオイル開発業者の撤退といった動きは確認できない。ちなみに、前年同期の石油リグ数は1,397基であり、過去1年間に米国内で稼動している石油リグ数は12.7%も急増している。

また、米エネルギー情報局(EIA)は週単位の米国産産油量を発表しているが、こちらも未だに増産傾向に対するブレーキさえ確認できない状況になっている。10月末時点の産油量は日量897.2万バレルだったが、11月末時点では908.3万バレルに達しており、僅か1ヶ月で10万バレル超の増産が実現している。前年同期の801.1万バレルからは107.2万バレルの増産状態になっている。

従来のマーケットの常識では、シェールオイルは80ドル前後の原油価格が採算分岐点と言われていた。実際に国際エネルギー機関(IEA)も80ドルを割り込めばシェールオイルの4%、世界の原油供給では日量260万バレルが採算割れの状態に陥るとの試算を発表していた。このため、中長期的なフロアープライスとして原油価格の80ドル水準は防衛できるとの楽観ムードがあった。しかし実際には、シェールオイルは急ピッチに採算ラインの引き下げを進めており、今やテキサス州では40ドル台でも耐えられるといった報告が聞かれる状況になっている。

既に新規開発申請などには原油安の影響が確認できる状況になっているが、マーケットがシェールオイルの採算分岐点を読み間違えていたことも、最近の原油相場急落を加速させている一因と評価できよう。




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マーケットエッジ

プロフィール

小菅 努

Tsutomu Kosuge

マーケットエッジ株式会社 代表取締役

1976年千葉県生まれ。筑波大学卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト・東京商品取引所認定(貴金属、石油、ゴム、農産物)。

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