雇用対策として中央銀行のプラチナ購入案が浮上中=南アフリカ
自動車などの工業用触媒や宝飾品などに使用されるプラチナ(白金)価格の急落が続く中、世界のプラチナ供給の8割程度をカバーする南アフリカ共和国において、中央銀行によるプラチナ購入案が浮上していることが明らかにされた。
8月26日に南アフリカ政府、鉱山業界経営者、鉱山労働組合の三者協議が行われたが、プラチナ鉱山業界を政策的に支援するパッケージの一つとして、中央銀行がその準備資産としてドルや金(Gold)などと同様にプラチナを保有する案が合意形成に向かっている模様だ。8月31日?9月1日までの正式合意が目指されているが、これまで世界的にみて必ずしも「通貨」とは評価されてこなかったプラチナが、その通貨性を強化する歴史的なイベントになる可能性がある。
具体的な数量などについての言及は見られなかったが、南アフリカのみならずBRICsグループ(ブラジル、ロシア、インド、中国)の中央銀行に対しても準備資産としてのプラチナ採用を呼び掛けることも検討されているため、今後の展開によってはプラチナを取り巻く環境が大きな変化を見せる可能性も想定しておく必要がある。
準備資産の分散と言う観点では、既に国際基軸通貨ドル、そして広域通貨ユーロなどとは独立した論理を持つ通貨として、金を準備資産の一部に組み入れる動きは世界的にみて広がっている。特に、金本位制の伝統もある欧米では準備資産の6?7割程度を金で保有する国も多い。世界全体で中央銀行が保有する金は3万1,956トンにも達している。このため、金を巡る環境に何か大きなネガティブ材料が浮上しない限りは、世界的にプラチナを準備資産に組み込むニーズが高まるとは考えづらい。
実際に南アフリカにとっても、中央銀行の準備資産政策としては、必ずしもプラチナを購入する積極的なニーズは見出せない。しかし、南アフリカにおいては鉱業部門が国内総生産(GDP)の7%前後を占めていることに加えて、プラチナ相場の急落によってプラチナ鉱山業界に人員削減(リストラ)の嵐が吹き荒れる中、景気(特に雇用)対策としてのプラチナ鉱山業界支援の必要性が著しく高くなっている。このままプラチナ価格の低迷を放置しておくと、失業率の更なる急伸、そして政権批判の声も強まりかねず、プラチナ鉱山業界支援の「裏技」として、中央銀行によるプラチナ購入案が浮上している。これと同様の計画は、世界第二位のプラチナ生産国であるロシアなどでも確認されており、資源価格急落が続く中での余波の一つと評価している。
もっとも、プラチナ需給や価格に対するインパクトとしては、仮にこの計画が実現したとしても一時的なものに留まろう。プラチナの市場規模を考慮すれば、購入規模によって一時的に急伸反応が示される可能性もあるが、需給緩和傾向そのものに修正を迫るレべルまで、中央銀行がプラチナ準備資産の購入に踏み切るとは考えづらい。南アフリカとロシア以外では、そもそもプラチナ価格を支援する必要性も乏しく、一部のプラチナ生産国における限定された需要喚起策との評価で十分だろう。
注目すべきは、こうした特殊な事態にまでプラチナ生産国を追い込む程にプラチナ価格が低迷しない限り、緩和した需給環境を正常化するのは難しいことだ。寧ろ、プラチナ需給環境の厳しさ(=緩み)を象徴するイベントとみておきたい。
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