米大統領選のTV討論会後に金価格が急落した意味
9月26日の米大統領選挙のTV討論会を経て、金価格が値下がりしている。「有権者の半数が投票の参考にする」(ロイター/イプソス調査)とされる大統領選挙終盤の重要イベントにおいて、「ヒラリー氏が勝利」との世論調査が判明した結果である。CNNの世論調査によると、今回の討論会の勝者はどちらかとの質問に対して、トランプ氏の27%に対してヒラリー氏は62%に達している。
今回のTV討論会はテレビ視聴者数だけで約8,300万~8,400万人と過去最多を記録した模様だが、そこでヒラリー氏勝利の声が圧倒的になったことが、トランプ大統領誕生のリスクを軽減させたと評価されている。
この討論会に対する世論調査が伝わった26日のCOMEX金先物相場は、1オンス当たりで前日比13.70ドル安(1.0%安)の1,330.40ドルと急落している。9月20~21日の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ見送り後に付けた高値1,347.80ドルから大きく値下がりし、概ねFOMCでの利上げ見送りのインパクトはほぼ相殺された格好になっている。
ヒラリー氏もトランプ氏も、通貨高(=ドル高)を容認しないという方向性では大差がない。選挙キャンペーン中の発言をどこまで信用できるのかは判断が難しい所だが、米国が世界の通貨安競争の負担を一身に背負うことで、製造業や輸出業の停滞が促されていることには両者ともに強い危機感を示している。そして、米国民からはこうした為替政策への支持が集まっており、誰が大統領になっても「強いドル政策」は当面は取りづらい状況が続く可能性が高い。その意味では、昨年同様に今年もドル高圧力には強力かつ低い天井が形成されており、ドルの代替通貨・安全通貨とされる金価格に対しては次の大統領時代にもポジティブな相場環境が続く可能性が高いと言える。
ただ、強硬な発言が目立つトランプ氏に対して、ヒラリー氏は「良識派」との評価が一応は優勢であり、米大統領選挙を境に米国の政治経済政策の連続性が失われ、国際秩序が大きな変動を受ける大きなリスクが後退していることが、足元の金価格に対してはネガティブに機能している。
トランプ氏は、米連邦準備制度理事会(FRB)がオバマ大統領を支援するために意図的に低金利政策を展開していると批判して、自身が大統領に就任した際にはイエレンFRB議長の更迭を示唆するなど、FRBの独立性にも足を踏み入れる可能性を示唆している。公的債務を基準に政策金利を決定する案なども提示しており、米金融政策は大きな混乱状態を迎えるリスクもあった。
すなわち、今回の米大統領選挙はドルの信認問題にも発展しかねない状況にあり、トランプ大統領誕生であればドルから金(Gold)への換金が必要との声も強かった。こうした視点からは、一回目のTV討論会でヒラリー氏が勝利を収めたことは大きなインパクトがあり、大統領選挙に前後してリスク投資環境が大きな混乱状態に陥り、安全資産の代表格である金価格が急伸するリスクは後退したと言えるだろう。TV討論会後の金価格急落は、マーケット関係者のヒラリー大統領に対する安堵感を象徴すると同時に、トランプ大統領に対する恐怖心を象徴する動きとみている。
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