トランプ大統領に恐怖して金に逃げた投資家
11月8日に投開票が実施された米大統領選挙では、マーケットの大方の予想を裏切る形で、トランプ氏がクリントン氏を破って大統領就任を勝ち取った。事前のメディア報道・分析では、選挙人獲得数ベースでもクリントン氏の優勢が報じられていたが、蓋を開けてみればみれば接戦と言われていたスウィング・ステート(共和党支持と民主党支持で揺れ動く浮動州)でトランプ氏が次々と勝利を獲得し、日本時間の9日16時過ぎには各メディアが相次いでトランプ氏に当確を出した。
米連邦捜査局(FBI)がクリントン氏の私用メール問題での訴追見送りを決定して以降、マーケットは各種世論調査や選挙人調査などの結果から、「クリントン大統領」の誕生をメインシナリオに設定して動いていた。クリントン氏であれば、オバマ政権の政策スタンスからの大幅な修正が見送られることに加えて、これまでの政治活動から今後の政策を予想し易いことで、少なくとも米政治が投資環境にとって大きな不確実性をもたらすことは回避できるとの安心感があった。マーケットの期待・願望も込めて、クリントン氏の勝利が想定されていた訳である。
しかし、実際に米国民が選んだのはトランプ大統領であり、グローバル・マーケットはサプライズ(驚き)と失望から、一種のパニック状態に陥っている。同日の日経平均株価が前日比919.84円安の1万6,251.54円と急落し、為替が早朝の1ドル=105.46円から一時101.19円まで最大で4.27円の円高・ドル安となったことが象徴的だが、リスク資産から手を引いて様子を見たいとのニーズが高まった。
トランプ大統領の政策が本当にマーケットにネガティブな影響を与えるのかは未確定な部分が多いが、いずれにしても「どのような政策が展開されるの分からない」との先行き不透明感が発生したのは間違いなく、予測困難な状況をみて、投機マネーの滞留場所をリスク資産から安全資産にシフトさせる大規模な動きが発生している。
その受け皿の一つが米国債などと並ぶ安全資産の代表格の一つである金(Gold)であり、国際指標となるCOMEX金先物相場は、11月8日終値が1オンス=1,274.50ドルだったのに対して、トランプ大統領誕生の可能性が高まる動きと連動して、9日には一時1,338.30ドル(前日比63.80ドル高)を付けている。金(Gold)が瞬時に輝きを増したことは、マーケットの不安心理を明確に表している。
■トランプ氏の発言内容に一喜一憂へ
この種の不安心理はどこまで織り込めば「正解」という指標がないだけに、ピーク状態を判断するのは難しい。「直ちに米政治環境に大きな変化が生じる訳ではない」との冷静な評価がすぐに広がる可能性がある一方、「投資環境は今後4年にわたって混乱状態を迎える」とのパニック状態に陥る可能性もある。
ただ間違いないのは、マーケットがトランプ大統領の発言内容の一言一句に注目していることだけであり、ここで従来のようなアジテーション型の発言から、米大統領にふさわしい節度のある発言にシフトできるのかが問われることになる。その意味では、大統領の当確が出た直後の勝利宣言において、米国内、そして世界との協調姿勢を打ち出した姿勢は一定の評価が可能である。米国内外に向けて「together(一緒に)」とのワードが繰り返し用いられたことで、米国が自国優先の孤立化に進み、国内で白人層とマイノリティー層との分断が深刻化するとの懸念は若干ながら和らいでいる。
まだ今後の政策について具体的な発言を行っていないだけに、当面はマーケットも緊張状態を迫られることになる。仮にドル安政策を支持する姿勢を明確化するような発言を行うと、「米国がドル安政策を固めた」との見方から一気にドル安(円高)が進む可能性も少なくはない。その際は、ドルの代替通貨、安全通貨である金(Gold)が更に急騰する可能性が高まる。
金(Gold)は安全資産と評価されているが、それだけに金価格は安値で低迷し、誰も金(Gold)を保有しようとしない時代の方が幸福と言える。金価格はトランプ大統領の誕生を受けて急騰したが、早い段階で値下がりを促すことができるかは、「トランプ・リスク」を評価する指標として有効だと考えている。
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