パラジウム価格が高騰している真相
自動車の排ガス触媒や電子部品などに使用されるパラジウム価格が急伸している。NYMEXパラジウム先物相場は、年初の1オンス=679.80ドルに対して6月9日の取引では一時891.35ドルまで急伸し、2014年9月以来となる約2年9カ月ぶりの高値を更新している。短期スパンでみても、5月22日の748.50ドルをボトムに、約3週間で19%の急騰相場が形成されている。
金やプラチナといった他の貴金属相場が、イギリス総選挙やコミー前米連邦捜査局(FBI)長官の議会証言などの重要度の高いリスク・イベントを迎えて不安定な値動きを迫られる中、パラジウム相場は独歩高とも言える明確な上昇トレンドを形成しており、地合の強さが際立っている。
底流にあるのは、パラジウム需給のひっ迫化だ。貴金属調査会社GFMSによると、世界のパラジウム需給は2015年が37.9万オンスの供給不足だったのに対して、16年が67.3万オンス、17年が137.0万オンス、18年が160.6万オンスと急激に供給不足幅を拡大する見通しになっている。
価格低迷で鉱山生産やリサイクル回収と言った供給が伸び悩む中、世界経済の復調を背景とした需要拡大圧力に対応するのが困難な情勢になっているためだ。一般的にパラジウムというと、虫歯の際に使用される歯科加工素材がイメージされ易いが、実際には自動車の排ガス中に含まれる有害物質を無害化する触媒としての使用量が総需要の7~8割程度を占めており、世界の環境規制動向と同時に経済成長とも密接な関係を持つ工業用素材としての性質が強い貴金属になっている。
そして、足元では世界経済の復調傾向が一段と確かなものになる中、従来よりも価格水準を引き上げて供給環境を刺激する必要性が指摘されている。パラジウムは、2016年1月の451.50ドルからほぼ一貫して水準を切り上げている相場であり、「需給ひっ迫化→価格上昇」という長期トレンドの中に位置づけられる値動きである。約1年半をかけて二倍に値上がりした計算になる。
◆スクィーズが発生している可能性あり
ただ、それでもここ3週間ほどのパラジウム価格高騰には異常さが目立ち、投機的な売買が活発化している可能性が指摘されている。それを象徴するのが、先物市場で受け渡し時期が近い期近限月(きぢかげんげつ)が主導する急騰相場になっていることだ。
一般的に先物価格は、受け渡し時期が先になるほどに保管コストなどが必要とされるため、受け渡し時期が近い期近限月に対して、受け渡し時期が先になる期先限月(きさきげんげつ)の価格の方が割高になる。これを順鞘(じゅんざや)と言い、実際に金・銀・プラチナはいずれも順鞘を形成している。
一方、パラジウムは期近の2017年6月物が864.60ドルに対して、1年後の18年6月物は821.95ドルに留まっており、完全な逆鞘(ぎゃくざや)が形成されている。即ち、足元のパラジウム相場の高騰は、将来の需給ひっ迫を織り込むというよりも、足元の需給ひっ迫に直面した動きなのである。
何か鉱山生産に特別な大きなトラブルが発生している訳でも、自動車メーカーなどが突然に在庫手当てを急増させている訳でもなく、一部投機筋が短期の渡し物を市場から吸収して需給を引き締める玉締め(ぎょくじめ)を行っている可能性が指摘されている。リースレートと言われる貴金属借り入れの際の金利が急伸しており、短期の現物調達が困難な状況になっていることが明確に確認できる状況にある。
極めて投機色の強い値動きとあって、こうした急伸地合がこのまま続く可能性は低い。期近限月に異常なプレミアムが加算された状態にあり、いつ急落が開始されても不思議ではない状況になっている。
ただ、このような投機色が強い急騰相場が実現していることは、パラジウム価格の高騰に一定の理論的な根拠が存在しており、高騰を容認するムードが形成されている可能性が高いことを示唆している。目先は乱高下し易い相場だが、中長期上昇トレンドにおける一時的なスピードアップが発生し、今後はそのスピードを持続可能な通常の速度に戻す必要性が高まっているに過ぎないとの評価が基本になる。
6月9日終値だと、2017年6月物でパラジウム相場が864.60ドルに対して、プラチナ相場は939.10ドルになっている。1年前だと、プラチナ価格とパラジウム価格との間には450ドル程度の価格差が存在していたが、今や74.50ドルまで縮小している。パラジウムとプラチナが同じ価格水準になる時代さえも近づいているのかもしれない。
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