米の対中関税で金が急伸、利下げサイクル入り警戒か
金価格の高騰が続いている。国際指標となるCOMEX金先物相場は1オンス=1,461.90ドルまで値上がりし、2013年5月以来の高値を更新している。トランプ米大統領が突然に3,000億ドル相当の中国製品の輸入に対して10%の課税を行うと発表したことが、金市場に対する投機マネーの流入を促している。
7月30~31日の米連邦公開市場委員会(FOMC)を経て、8月1日の金相場は一時1,412.10ドルまで下落していた。米連邦準備制度理事会(FRB)は経済成長の「不透明感」を理由に0.25%の利下げに踏み切ったものの、パウエルFRB議長がこれは「長期の利下げ局面開始とは異なる」として、本格的な利下げサイクル入りするとの見方を否定したことが、金価格の強気派の失望売りを誘った結果である。
マーケットでは、年内に3回程度の利下げ、更には最終的にはゼロ金利や量的緩和政策の再開までも見込んで、低金利・通貨安環境の恩恵を受ける金に対して投機マネーの流入を加速させていた。しかし、パウエル議長の発言をきっかけに行き過ぎた金融緩和見通しが修正を迫られる中、金価格は調整局面入りする可能性が高まっていた。
だが、このタイミングで突然にトランプ大統領が米中対立の問題を深刻化させたことで、投機マネーの流れが一変している。
7月30~31日の米中通商協議の結果にトランプ大統領が強い不満を有しているのは明らかであり、大統領は対中強硬姿勢で中国側からの譲歩を引き出す方針を再確認している。しかし、中国側はこうした圧力に屈して譲歩する対応は行わない姿勢を示しており、このまま米中が改めてチキンレースに突入するのではないかとの警戒感が広がっている。国際通貨基金(IMF)は米中両国が互いの全輸入品に対して課税を行うと、2020年の世界経済成長率は0.5%下振れすると警告していたが、この警告が現実化しそうな状況になっている。
このため、「株や原油などのリスク資産売り」、それに対する「金や円、米国債など安全資産買い」の文脈で今回の金相場急伸は議論されているが、金市場に対する影響はそれに留まらないだろう。
■FRBに追加利下げの大義名分
トランプ大統領はFRBに対して大幅な利下げ対応を要求しており、今回のFOMCの結果に対しても「いつも通りに失望した」、「FRBから多くの助けを得られない」と、米中対立の厳しい経済環境にもかかわらず、金融政策からの景気支援を十分に得られていないことに不満を表明している。
FRBはこうした大統領の不満を意識してか、景気拡大見通しを前提にしつつも「不透明感」を理由に利下げに踏み切る異例の対応を行ったが、逆にトランプ大統領の怒りを買ってしまった格好になる。
一方で、今回の中国に対する追加関税措置は米経済の先行き不透明感を更に高めることになり、FRBは7月30~31日の会合時に考えていたよりも早期にかつ大幅な利下げ対応を迫られる可能性が浮上している。少なくとも今回の対中追加関税を理由に次回の9月会合で更に0.25%の利下げ対応に踏み切っても一定の説得力が得られる「大義名分」は得られた格好になる。
FOMC後に急落していた金相場が急反発しているのは、「やはり本格的な利下げサイクル入りするのではないか」、「利下げでもリスクオフ化を阻止するのは限界ではないか」との危機感を反映したものと言えよう。