米中「新冷戦」への警戒織り込む金価格 過去最高値を更新中
金価格の高騰が続いている。NY金先物相場は7月中旬の1オンス=1,800ドル水準に対して、7月24日の取引では1,930ドルまで値上がりしている。2011年9月に付けた1,923.70ドルを上抜き、過去最高値を更新している。年初の1,521ドルから既に400ドルを超える値上りになっている。円建て金先物相場も、年初の1グラム=5,303円に対して6,500円台まで値上がりしており、こちらも金先物取引開始以来の過去最高値を更新し続けている。
ここにきて金相場の高騰が進んでいる背景にあるのは、米中対立の激化だ。米政府は、テキサス州ヒューストンの中国総領事館が知的財産権や個人情報侵害の拠点になっているとして、同施設の閉鎖を命じた。これに対して、中国政府は四川省成都の米総領事館閉鎖を命じており、両国が在外公館の閉鎖を命じ合う「開戦前夜」とも言える動きが、金市場に対する資金流入を促している。
香港の自治を否定する香港国家安全法の導入を巡って欧米諸国と中国との政治対立は激しさを増していたが、米政府はポンペオ国務長官主導で南シナ海での中国の領有権主張の拒絶、第5世代(5G)通信システムから中国企業の排除などの「共通原則」で、自由主義諸国に対して協調を求めている。欧州やオーストラリアなど一部の国は、既にこうした動きに呼応して、対中強硬姿勢に傾斜し始めている。
米中対立は、香港情勢、台湾の自治、チベットやウイグルの人権問題、中国の海洋進出、知的財産権保護など多方面で同時に展開されているが、米中の「新冷戦」とも言われる状況が、安全資産としての金に対する投資ニーズを高めている。従来は景気への配慮もあって全面的な対立は回避されてきたが、現在は財政政策と金融政策がフル稼働の状態にあるため、経済ショックを限定できるとの計算もあるのだろう。しかも秋には大統領選挙を控えており、支持率が低下しているとの世論調査が目立つトランプ米大統領の動きも読みづらくなっている。
今年は投資リスクが高まる局面にあって、金と同様にドルを買う動きも目立っていた。しかし、米国内では新型コロナウイルスの感染被害が広がり続け、議会は大規模な景気対策の導入を続けて財政赤字は膨張し、米連邦準備制度理事会(FRB)が異例の金融緩和策で低金利とマネーストックの膨張を促す中、もはやドルが投資家の不安心理の受け皿として機能しなくなり始めている。
金相場の高騰は、換言すればドルを売って金を購入する動きが広がりを見せていることを意味し、国際基軸通貨であるドルでさえも、信認を失い始めていることが示されている。国家の信用に基づくペーパー資産では資産を防衛できないのではないかとの危機感が高まる中、実物資産である金に対する評価が高まる一方の状態になっている。
急ピッチな高騰相場が続いていることで過熱感は極めて強いだけに、値動きは荒れ易い。しかし、金価格高騰の条件は完璧に整った状態になっている。いよいよ2,000ドルといった未経験の価格ゾーンも現実的なターゲットとして見え始めている。
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